兄さん誕生日その2
□アスファルト
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外のアスファルト工事の音がだいぶやかましくなってきた。わざとやってんじゃねぇかって思うくらい、いつもの倍はやかましい。こちとらちょうど昼時。営業妨害いいとこだとクレームつけてやるのも悪くはねぇけど、道路工事してんのがお得意さんのデュバルだし、フランキーが車使うから中途半端な工事も困るってことでやめておいた。
でも、がりがりアスファルトの音がして、テレビも聞こえづらくて。「イイナンデスヨウ」を見ようとしていた仕事休みのウソップとルフィがため息をついているのが聞こえた。
「テレビの音聞こえないぞ、サンジ」
「んー、参ったな。こればっかはどうしようも。イヤホンとかは?」
「なるほど」
ウソップがイヤホン出してきて、テレビにぐさっと突き刺した。片耳と片耳で分け合って聞いている。まぁ、これで解決か。そう思って調理に戻る。でも、おれの耳にはまだがりがりアスファルトが鳴る音が残るわけで。あぁ、料理に集中しよう。
「サンジさん、お困りですか?」
「おぉ、ブルック」
そういやブルックも今日仕事休みか。
「いやな、アスファルト工事の音が騒がしくて。掻き消すくらいの一曲くれ」
「わっかりました!」
「お、ブルック演奏すんのか」
「いいぞ、やれー!」
ルフィとウソップがイヤホンを外して茶化す。では、と取り出されたギター。びぃん、と豪快な音がして、客として来ていたコニスちゃんが嬉しそうにブルックの方を向いた。
「あら、演奏会ですか?言ってくださったらハープを持ってきたのに」
「まぁ急遽決まったからさぁ。今回は世界的に有名なソウルキングの演奏聞いていってくれよ」
「…へそ!」
コニスちゃんがにっこり笑うのが合図みてぇに、ブルックはギターを豪快に弾き出した。
「いくぜェ!!New World!」
「イェーイ!」
弾んだリズムと強い曲が流れ始める。結構強い音だが、アスファルト工事に比べると聞きやすくて、思わずノッちまうんだ。
「…おやァ?」
歌の途中でブルックが首を傾げる。耳を傾ければ、アスファルトの音がさらに大きくなっている。窓を開けて見れば、デュバルがウィンクを飛ばしてきた。
「若旦那ァ!!こっちの音も負けてませんぜ」
「何張り合ってんだてめェ!!」
「えっ、ハンサム?」
「言ってねェよ!!」
怒鳴りかかってやろうとしたら、骨張った手がそれを止めた。ブルックがにっこりと指を振って、
「サンジさん。私があのアスファルトの音も音楽に変えてみせます」
「…へぇ、頼む」
「了解」
ブルックは、窓を開け放ちリズムを今度はジャズ調にさせた。すると、アスファルトを砕いていたドリルの音が、ドラムの音みたく細やかにリズミカルに変化して、まるで別の音みてぇに聞こえてきた。デュバルの奴も操られたみてぇにドリルを動かしてるし。ブルックが音楽をやめても、ドリルの音はリズミカルのままだった。
「さぁ、みなさん、楽しいお食事をっ」
「おーっ!」
こうして無事、うるさい音から楽しく逃れることはできたが、アスファルトの穴の開け過ぎで、デュバルは叱られちまったらしく、今度はアスファルト埋めに徹することになったらしい。
…ま、何事もほどほどにってことだな。
―――
アスファルト。