兄さん誕生日その2

□あの日
1ページ/1ページ




「なぁ、ばあさん。目ェ覚めた時に電話してたの、誰だい?」


「あら、聞いてたのかい」


立ち上がってネクタイをしっかりしめた料理人が尋ねれば、マカルは肩を竦めた。ベッドをそっと整え直せば、テーブルの椅子を迎えるように引かれる。


「息子だよ。あんたが寝てたそのベッドも、元は息子のものだったんだ」


「息子さんの?」


「あぁ」


ことりと温かいミルクのマグをおいて、料理人に勧めながら、彼が座るのをじっと見つめた。


「ちょうどあんたと同じくらいの歳にね。海に出たんだよ。そん時は旦那が居てね」


「旦那?」


「今は病気で死んじまったけどね。いい旦那だったよ」


「…へぇ」


料理人がゆっくりミルクを啜りながら続きを促せば、


「旦那が死んだのがね、ちょうど私の誕生日だったのさ――」


マカルはゆっくりと振り返るように話しはじめた。


―――――
あの日。


Next→息を止めた
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ