兄さん誕生日その2
□あの日
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「なぁ、ばあさん。目ェ覚めた時に電話してたの、誰だい?」
「あら、聞いてたのかい」
立ち上がってネクタイをしっかりしめた料理人が尋ねれば、マカルは肩を竦めた。ベッドをそっと整え直せば、テーブルの椅子を迎えるように引かれる。
「息子だよ。あんたが寝てたそのベッドも、元は息子のものだったんだ」
「息子さんの?」
「あぁ」
ことりと温かいミルクのマグをおいて、料理人に勧めながら、彼が座るのをじっと見つめた。
「ちょうどあんたと同じくらいの歳にね。海に出たんだよ。そん時は旦那が居てね」
「旦那?」
「今は病気で死んじまったけどね。いい旦那だったよ」
「…へぇ」
料理人がゆっくりミルクを啜りながら続きを促せば、
「旦那が死んだのがね、ちょうど私の誕生日だったのさ――」
マカルはゆっくりと振り返るように話しはじめた。
―――――
あの日。
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