兄さん誕生日その2
□新世界
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「あんた、本当にコックなんだね」
「疑ってたのか?」
「いいや、感心してるのさ」
マカルが笑い声を漏らす。器用にもボウルの中で香り高いバターを丁寧にほぐしていく一方で、鍋の中で塩胡椒した鶏肉、玉ねぎじゃがいもにんじん等の野菜を手早く炒めていく。
「時間ねぇからスポンジタイプ。となるとレーズン」
「クグロフかい?」
さらっと言われ、料理人は唖然としたように振り向いた。
「…ばあさんホントに医者か?」
「この家にこもってると暇でね。料理は趣味さ。ブイヨンも手作りだよ」
「…すげぇな」
さらっとした回答に感心した声をあげながら、ハチミツを計り入れてまたバターとかしゅかしゅ混ぜる。片手で卵を割り、器に入れてそちらも別の容器に混ぜた。
「いい食材なのも器具がそろってるのも、納得だ」
「食材はほとんど直送してもらってる。オチオチ買えないからね」
「へぇ、新世界ってそういうとこもすげぇんだな」
「…料理の深さも新世界はすごいよ」
「そりゃ楽しみだ」
しゃべりながらも、卵を掻き混ぜ、クリームのようにとろっとしたバターハチミツに少しずつ混ぜていく。一方で炒めているシチューの具材にキノコをくわえ、白ワインをかけて絡めた。
「手際いいね」
「…新世界でも通じるだろ?」
「……あぁ、大丈夫さ」
マカルが笑顔で言えば、料理人も思わず口元を緩めながら、シチュー鍋を慌てて掻き混ぜ、水とローリエを注いだ。
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新世界。たわいのない会話からも。
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