兄さん誕生日その1
□陽射し
1ページ/1ページ
ぷるぷるぷる。ぷるぷるぷる。
「…ん…」
2時間後。鳴り響く子電伝虫を目覚ましに、料理人はゆっくりと瞳を開けた。身体は少し怠いが、頭はほぼいつものようにすっきりしていて、身体の痺れもだいぶとれていた。身体をゆっくりと起こす。安堵のため息をついたマカルと目があって、思わず苦笑する。
「…寝すぎちまったかな」
「そんなことないさ。まだ安静が必要なくらいだから、今日帰るのはおよしよ」
「…おう、恩返しも出来てねぇしさ。…悪ィ、それ、とってくれるか?」
「…いいのかい?」
近づいてきたマカルの表情に料理人は瞬きする。
「あんた、すごくうなされてたんだよ。喧嘩とかしたんじゃないかい?」
「いんや…。最近、一方的に距離置かれてて。理由わからなくて。それ考えるために森の探検してあぁなった」
料理人が眉を下げながら言えば、マカルの表情も不安そうになった。
「でも、多分、心配してると思うから」
料理人の言葉に、マカルは頷いて子電伝虫を渡す。料理人は不安げな表情を見せたあと、ゆっくりと子電伝虫をとった。
「……もしもし」
――サンジさぁぁぁぁん!!!?つながりました!!!!つながりましたよぉぉぉ!!!
音楽家の涙声が響いてきて、料理人は瞳を見開いた。
――もしもしじゃねぇ!!いまどこだ!!!
――サンジ無事なのかっ!!だいじょうぶなのかっ!!?声少ししんどそうだぞ…。お前寝てたって、どうしたんだ?
――今どこなんだ!?この島危ないってわかって、連絡したけど、なんかうめき声みてぇな声がして…!!一回ばあさんが出たけど、それから通じなくて!お前ほんとにほんとに大丈夫か!?
――ケガとかしてねぇんだろうなァ!?
続いて発せられた強い心配の声に、料理人は表情を少しだけ緩めた。
「…少し新世界の毒植物に苦戦しちまって。食われかけたとこを優しいレディに助けられたんだ。悪ィな、心配かけて」
電伝虫の奥から、ざわざわとどよめきが聞こえた。
――うぁぁぁぁ、ボーイン諸島で植物いっぱい学んだのにぃぃ!!!ごめんサンジっ!ごめんっ!
――帰れそう?大丈夫?
料理人はここでぴた、と言葉を止める。まだ、例の件が心に引っ掛かっていて。
――サンジ…?
不安そうに零れてきた声。マカルもじっとはらはらしながら見つめている。だが、料理人は直接聞くような真似はせず、ぐっと言葉を飲み込んだ。
「ありがとう、ロビンちゃん。ウソップもな。ちょっと今日は帰れねぇや」
料理人は一呼吸おいて、言葉を続ける。
「ばあさんも安静にしてろって言ってるし、今帰ったら食われちまいそうだ。晩飯や朝飯作れなくて悪ィな。明日になったら一人で帰るから、何も心配せずにくつろいで――」
――何言ってんだ!迎えに行ってやるに決まってんだろっ!!
強い言葉が帰ってきて、料理人は子電伝虫をぽかんと見つめる。子電伝虫の表情が強気になっていた。だが、強気の言葉を宥めるように、料理人は子電伝虫を撫でた。
「いいよ、船長。危ねェんだってわかってんだろ。一人で帰るから、喜んで寛いでやがれ」
――サンジはまたそうやって…!ダメだっ、今すぐ行くっ。それに喜んでとかアホなことい――
――サンジ君。こういうことだから心配しないで待っててね。ちゃんと安静にしてなさい。無理しちゃダメよ。
――ナミ!!勝手に
ぶつっと電伝虫が切れて、料理人はまた瞬きをする。ため息を零せば、マカルはにっこりと笑った。
「愛されてるじゃないか」
「…ん」
料理人は、眠りはじめた子電伝虫を見て笑顔をこぼした。距離感を置かれたのは何だったのかという理由を悩むよりも、心配して、迎えに行くと怒鳴ってくれた嬉しさの方が強く残って。心に光が灯ったように、ぽかぽかと温まり始める。
「悪ィけどさ…どうにかあいつら襲わせないようにしてくれるか?」
「はいはい」
料理人の呟くような言葉に、マカルは笑いながら頷いた。
―――――
陽射し。彼の心に差し込む安心の陽射し。
Next→SOS