兄さん誕生日その1

□陽射し
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ぷるぷるぷる。ぷるぷるぷる。


「…ん…」


2時間後。鳴り響く子電伝虫を目覚ましに、料理人はゆっくりと瞳を開けた。身体は少し怠いが、頭はほぼいつものようにすっきりしていて、身体の痺れもだいぶとれていた。身体をゆっくりと起こす。安堵のため息をついたマカルと目があって、思わず苦笑する。


「…寝すぎちまったかな」


「そんなことないさ。まだ安静が必要なくらいだから、今日帰るのはおよしよ」


「…おう、恩返しも出来てねぇしさ。…悪ィ、それ、とってくれるか?」


「…いいのかい?」


近づいてきたマカルの表情に料理人は瞬きする。


「あんた、すごくうなされてたんだよ。喧嘩とかしたんじゃないかい?」


「いんや…。最近、一方的に距離置かれてて。理由わからなくて。それ考えるために森の探検してあぁなった」


料理人が眉を下げながら言えば、マカルの表情も不安そうになった。


「でも、多分、心配してると思うから」


料理人の言葉に、マカルは頷いて子電伝虫を渡す。料理人は不安げな表情を見せたあと、ゆっくりと子電伝虫をとった。


「……もしもし」


――サンジさぁぁぁぁん!!!?つながりました!!!!つながりましたよぉぉぉ!!!


音楽家の涙声が響いてきて、料理人は瞳を見開いた。


――もしもしじゃねぇ!!いまどこだ!!!


――サンジ無事なのかっ!!だいじょうぶなのかっ!!?声少ししんどそうだぞ…。お前寝てたって、どうしたんだ?


――今どこなんだ!?この島危ないってわかって、連絡したけど、なんかうめき声みてぇな声がして…!!一回ばあさんが出たけど、それから通じなくて!お前ほんとにほんとに大丈夫か!?


――ケガとかしてねぇんだろうなァ!?


続いて発せられた強い心配の声に、料理人は表情を少しだけ緩めた。


「…少し新世界の毒植物に苦戦しちまって。食われかけたとこを優しいレディに助けられたんだ。悪ィな、心配かけて」


電伝虫の奥から、ざわざわとどよめきが聞こえた。


――うぁぁぁぁ、ボーイン諸島で植物いっぱい学んだのにぃぃ!!!ごめんサンジっ!ごめんっ!


――帰れそう?大丈夫?


料理人はここでぴた、と言葉を止める。まだ、例の件が心に引っ掛かっていて。


――サンジ…?


不安そうに零れてきた声。マカルもじっとはらはらしながら見つめている。だが、料理人は直接聞くような真似はせず、ぐっと言葉を飲み込んだ。


「ありがとう、ロビンちゃん。ウソップもな。ちょっと今日は帰れねぇや」


料理人は一呼吸おいて、言葉を続ける。


「ばあさんも安静にしてろって言ってるし、今帰ったら食われちまいそうだ。晩飯や朝飯作れなくて悪ィな。明日になったら一人で帰るから、何も心配せずにくつろいで――」


――何言ってんだ!迎えに行ってやるに決まってんだろっ!!


強い言葉が帰ってきて、料理人は子電伝虫をぽかんと見つめる。子電伝虫の表情が強気になっていた。だが、強気の言葉を宥めるように、料理人は子電伝虫を撫でた。


「いいよ、船長。危ねェんだってわかってんだろ。一人で帰るから、喜んで寛いでやがれ」


――サンジはまたそうやって…!ダメだっ、今すぐ行くっ。それに喜んでとかアホなことい――


――サンジ君。こういうことだから心配しないで待っててね。ちゃんと安静にしてなさい。無理しちゃダメよ。


――ナミ!!勝手に


ぶつっと電伝虫が切れて、料理人はまた瞬きをする。ため息を零せば、マカルはにっこりと笑った。


「愛されてるじゃないか」


「…ん」


料理人は、眠りはじめた子電伝虫を見て笑顔をこぼした。距離感を置かれたのは何だったのかという理由を悩むよりも、心配して、迎えに行くと怒鳴ってくれた嬉しさの方が強く残って。心に光が灯ったように、ぽかぽかと温まり始める。


「悪ィけどさ…どうにかあいつら襲わせないようにしてくれるか?」


「はいはい」


料理人の呟くような言葉に、マカルは笑いながら頷いた。



―――――
陽射し。彼の心に差し込む安心の陽射し。


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