兄さん誕生日2015 3

□100の言葉
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「このお肉はじゅうしいかつ新鮮でミディアムレアに焼けていて、口の中から肉汁があふれてくるざます」


「なにをおっしゃいますやらこのお肉はウェルダンでしっかりと肉の歯ごたえを楽しめる上質な品ざんしょ。あなた舌おかしいんじゃありません?」


「おたくこそ!この間薄切りの上質な豚を鶏と勘違いしてたじゃありませんか!やだやだ貧乏舌は!貧乏人はこの料理を食べるべきじゃあないざますよ」


「むきー!!あなたこそこの美味なコースを味わうには100年早いざます!!」


「……」


料理人は、呆れたように食後の紅茶を啜っていた。彼はいつものように一味に料理をふるまい、もうちょっと食事をしたい船長と共に、まかないを平らげ、一緒にしゃべりながら食後の飲み物を飲んでいたのだが。


「シェフ!!こんな客追い出してちょうだいませ!シェフの上質なお肉の店にはふさわしくないざます!!」


「シェフ!耳を貸しちゃだめざます!こんな貧乏舌!舌が悪くなるざます!」



こんな口論がすぐそばのレストランから聞こえてきたため、顔を思わずしかめてしまったのだ。


「サンジー、紅茶おかわり」


「ん」


料理人はティーポットからソーサーに茶を注いでやった。まだ相変わらず口論が聞こえてくる。船長はちらっとそれを見ながら、


「気になるのか?」


「ん?」


「外」


「気にならねぇ方が無理だよ」


料理人はカップに残った紅茶をぐいっと煽った。


「あれじゃ褒められてる気しねぇだろうな、あそこのシェフは」


「そりゃそうだ」


「へぇ、わかんのか?」


料理人がいたずらっぽく問えば、船長はあち、とティーカップを一旦置いてから頷いた。


「わかるぞ!」


船長は強くそういってから、言葉をつづけた。


「あんなにいっぱい言うより、うめぇって言った方がわかりやすいもんな!」


料理人はきょとんとした。船長は、自信満々に言い切って、紅茶をまた啜ったが、やがて、料理人の様子が想像と違うことに気づきむすっとする。


「ぷはは」


「何笑ってんだ!サンジ!」


「いや、わりぃ」


怒った船長に、料理人は笑い声を漏らしながら、


「違いねぇって、思っただけだよ」


あんなにべらべら100も200も褒め言葉かどうかわからない感想を並べられるよりは、すぱりと直球でいわれた方が嬉しいに違いない。
船長は料理人の感情がわかったのか、しししと笑った。


「そっかっ」


「ああ、そうだ」


彼らは顔を見せあって、笑い合う。外からはまだ、討論の声が聞こえてきていたが、彼らの耳には入らない。


「じゃあ、うめぇ茶菓子でもデザートに食うか。レディたちも呼んで来よう」


「うめぇ茶菓子食う!!他のみんなも呼んでくるな!!」


彼らは楽しそうな直球で100の言葉を掻き消しながら、食後のデザートを楽しむことに決めたようだ。


――
これにて完。

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