兄さん誕生日2015 3
□水面に映るは
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↓ちょっとホラーです。ご注意。
「すげぇなー」
船長と船医は、楽しそうに海を見つめていた。彼らは料理人と共に船番をしていて、航海士からこの海の噂を聞いていたのだ。
「この海はね、16時になるとある人にとっては鏡みたいに見えるんですって。でも、ほとんどの人は別世界に見えるらしいわ」
「ほんとにきれいに映ってるな、サニー号」
「なー」
彼らは感心したように水面に映るサニー号を眺めていた。
「なぁ、サンジもこいよー!きれいにサニー映ってるぞ!」
「映ってるぞ!」
彼らはキッチンにいる料理人を誘った。だが、料理人はちらとそっちを見た後、首を振った。
「おれはいいよ」
「なんでだ?」
「違うもんが、見えるから」
「ええ!?」
船医は驚いたように言った。船長は料理人が暗い顔をしているのに気付き、すぐにキッチンに飛び込む。
「何が、見えるんだ」
「……」
「サンジ!」
船長は目をそらした彼の肩を掴んで揺らす。料理人は迷った顔をしたが、ぼそりとつぶやいた。
「真っ赤、なんだ」
「え」
「海が赤い。血みてぇな色で、時々、おぼれてる男が見える」
「ひいいいいい!!!!」
船医は悲鳴をあげた。料理人はすうっと息を吸い込んで自身を落ち着かせる。
「お前らには、見えてねえんだよな」
「うん」
「……じゃあ」
料理人はゆっくりと立ち上がった。だが、船長が静かにそれを止めた。
「サンジ」
「おぼれてる奴、本当にいたら寝覚め悪いだろ。だから……」
「だから、確かめてきてやる!」
「え」
唖然とした返事を聞くやいなや。船長は、料理人ににぃっと笑いかけると、勢いよく海に飛び込んだ。バカ、思わず叫ぶ。船長はカナヅチだ。泳げないのに。
「チョッパー!ロープ出しといてくれ!」
「え、あ、う、うん!!!!」
船医の返事を聞かないうちに、料理人は船壁に立った。真っ赤な海。おぼれる船長の隣で、誰かがおぼれながら微笑んだ。料理人は静かに海に飛んだ。
赤い水が、跳ねる。勢いよく。泳いで船長を抱えたはずが、泳げなくて海に入った船長に抱えられている。いや、違う。船長に抱えられているのではない。これは、船長ではない。それに気づいたときには遅く、めきり、と強い力を覚え、水をぐうっと飲み込まされていた。
「サンジ!!」
声と共に、強い力を感じた。彼を抱える何かごと、船長が彼を抱え、船医が引くロープが彼らを甲板へと引っ張り上げた。
「ぶは」
「だ、だいじょうぶか!ルフィ、サンジ!」
「サンジ、お、お前があってたぞ」
船長はぜぇぜぇと息を散らしながら、抱えた料理人を離した。料理人はげほ、と水を吐き出しながら、彼に同意するかのように転がった。
「っ……あぁ」
体に張り付いたそれをべりっとはがす。それは、白骨だった。だいぶ古いものだ。弱った体からでも、簡単にぽろりと崩れ落ちた。
「よくわかんねぇけど、ひでぇめにあったんだな。こいつ」
「……だな」
料理人はじぃっとその死体を見つめていた。
死体は相変わらず、何も語らぬまま。それでも、不気味に、微笑んでいるように見えた。
――
静謐なる空間に続きます。