兄さん誕生日2015

□タイムスリップ
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嵐がうねる。ゆっくりと海の底に沈んでいく。苦しくて苦しくて仕方がない。それでも、あがくことも泳ぐこともできずただ沈んでいくだけ。そんな中視界にちらついたのは、壊れゆく自身が乗っていた船だけ。誰も、来ない。いや、来るはずだ。なぜ、そんなことが言える。


そうだ、これは。これは――


「!!!」


料理人はがばりと目を開けた。息をぜいぜい切らして、布団とハンモックを大きく揺らす。汗びっしょりの顔にそっと触れ、ここが現実であることを知りほうっと息を漏らす。またばふんとハンモックに倒れこんだ。心臓がバクバクとなっているのが分かる。


どうやら。タイムスリップしたように昔の夢を見ていたらしい。しかも、震えるくらいしんどかったところだ。いや、まだ続きはしんどいところが続くだろうけれども。


「……」


料理人は天井を見上げたままだった。まいった。昔のことなのに。今更怯えることもないのに。目を閉じることを拒んでしまう。続きを見るのが、いや、見ないかもしれないが、それが怖い。でも、まだ辺りは真っ暗だ。眠って疲れをとらなければ――


「ふげっ」


途端、彼は小さな悲鳴を上げた。上のハンモックから、落っこちてきた男。船長だ。彼は寝相が悪い。だから、ハンモックがどうなろうと平気でいろんなところに落ちてくるのだ。狙撃手も寝ている間にプロレス技をかけられて気絶しかけたらしい。やれやれ、と彼は呻く。


「戻してやるか」


技をかけられる前に、と考えたがぎゅうっと船長は彼の体を抱きしめてきた。遅かったか、と引きはがそうとしたが、


「むにゃぁ、大丈夫だぞぉ」


思わず、瞬きした。船長は、寝言を漏らしているようだった。彼の背をぽんぽんさすりながら、


「大丈夫だぁ、ぜぇんぶ」


どうやら誰かを、なだめているらしかった。


「……」


料理人は小さく笑った。誰を慰めているかなんてわからない。それでも、自分が慰められているように感じた。料理人は引きはがすしぐさをやめ、ばふっとハンモックに横たわった。何とか布団を掛けなおし、小さく息をつく。


「ありがとな」


ゆっくりと瞳を閉じて彼は眠りにつく。船長がしししと笑った気がした。
夢の続きを、彼はみずにすんだ。


――
シリアステイクな話をうまくまとめられるようにしたいです。

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