2015年兄さん誕1
□異界への扉
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もし。これは、もしの話であって、本当にあるということは信じないでほしいのだが。もし、亡くなった人としゃべることができるという扉を見つけたら、あなたはどうするだろうか。しかもその扉を開けるにはどんな代償を支払うことになるかわからない扉であっても、開けるだろうか。
「どう?」
考古学者はぱたんと本を閉じながら言った。そんな考古学者の前には船医がちょこんと座っていて、真剣に考古学者の話に聞き入っている。考古学者はその目をじっと見て付け足した。
「これは、ファンタジーよ。本当にはない話」
「そうなのか!!?」
「あら、信じちゃったの?」
考古学者は驚く船医をくすくすと笑った。そして、本をかざしながら言う。
「亡くなった人で会ってみたい人がいるのね」
「う、うん。ドクターだ」
「ドクター、ヒルルクね」
考古学者の言葉にこくりと頷く。考古学者は船医からその名前が発せられるのを何度も耳にしていた。船医の名付け親で、船医の心を最初に開いた医者。最後まで人の命をまっすぐに救おうとして、命を落とした医者だった。
「どんなことを話したいの?」
「ええっと、みんなのことだ!!」
船医は顔をきらきら輝かせながら言った。一味それぞれの姿が頭に浮かぶ。自分を海に連れ出してくれた船長、強さを教えてくれる剣士、最初に誘ってくれた航海士、いろいろ遊んだり話をしてくれる狙撃手、美味しい料理と優しさをくれる料理人、いろいろな本を読み聞かせ知識を与えてくれる考古学者、おもしろい発明をたくさん見せてくれる船大工、そして、いつも明るくて楽しい音楽家。みんなの話がしたい。
「私もちゃんといれてくれているのね」
「あたりまえだ!ロビンも仲間だもんな!」
「ありがと」
考古学者は本をそっと脇に抱えた。船医は考古学者についていく。
「ロビン、扉をあけるダイショウってなんなんだ?」
「たぶん、チョッパーの大切なものね」
「たいせつなもの??」
船医の質問に、考古学者は少し悲しげな顔をした。
「たとえば、私たちとか」
「え」
「チョッパーは、私たちを大切に思ってくれているでしょう。だから」
「そんなの嫌だぞ!!」
船医は思わず大声を出していた。考古学者は瞬きする。
「扉をあけるためだけに、みんなをぎせいにするなんて、やだぞっ……」
「ごめんなさい。少し、怖がらせすぎてしまったわね」
考古学者は少しぽろっと涙をこぼしてしまった船医をそっと撫でた。
「大丈夫よ、チョッパー。扉を開けなくても、あなたはドクターさんとお喋りできるわ」
「え?」
「だって、あなたの言葉や、心の中や頭の中に、ちゃんといるでしょう」
考古学者はふっと笑った。船医は涙をこすりながら考えてみる。確かに、自分が自信をなくしかけたとき、頭の中にあのどくろが浮かぶ。頑張れ、負けるな、と応援してくれているように。
「うん」
船医の頷きに、考古学者はふっと安堵して笑った。そして、脇に抱えた本を、そっと誰も目の届かないところにしまっておいた。
――
チョッパーは純粋すぎてすぐ泣いちゃう子ってのが二年前のイメージ。今はちょっと頼もしい。