2015年兄さん誕1
□日常からの脱出
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バロックワークスに入ることから、すでに日常からの脱出だった。危機が襲いかかる王国を脱し、わけがわからない世界で初めて会う人と組まされ、そのまま闇に染まりながら情報を得ていく。そんな毎日が続いていた。いや、当分続くと思っていた。
ところが、どうだ。今度は見ず知らずの海賊に救われ、この国の命運が託されてしまうとは。
「ビビちゃん、何書いてんだい?」
「え!!?」
ビビははっと息をのんだ。すぐ目の前では金髪の男が興味深そうに笑いながら彼女の方を見ている。そういえば、彼はここの船の一員だった。確か、料理人だったっけ。女好きの、美味しいドリンクを作れる。助けてもらってからまだそう時間は経ってない。彼に対する知識はその程度だ。
「ちょっと、書き物をしてただけよ」
「そっかぁ。じゃあ」
おともに、と目の前に突き出されたドリンク。思わず小さく瞬きした。さっきも特製ドリンクをもらったばかりなのに、今度は温かい飲み物が出てくるなんて。ビビはじっとそれを見た。
「え、あ、な、なんか不満、かい?嫌いとか?」
目の前の料理人はおどおどしていた。だが、ビビは相変わらずじぃっとそれを見やったままだった。
「なにこれ」
「え」
「なんで、ピンクなの!?」
マグをずいっと突き出した。たぷん、とマグの中の液体が揺れる。料理人はえっ、と固まった。
「ホット、いちご、オレだけど」
「いちご!?」
「ええ!?」
また驚かれて、料理人はえええと呻いた。ビビはさらに警戒心を強めた。
「毒入り!?毒入りなの!?」
「いやそんな!!」
「でもいちごでしょ!!それって毒蜘蛛なのよ!!」
「毒蜘蛛!!!!?」
話が妙な方向に発展していって、料理人が困惑しているのに気づかない。ビビはさらにヒートアップする。
「なによあんた!!もしかしてルフィさんたちにとりいって」
「やめなさい」
そこで航海士がどすりと一撃入れた。ナミさん、と安堵して泣きそうな料理人に優しい視線を向けてやってから、航海士は笑う。
「サンジ君、砂漠でいちごってとれないんじゃない?」
「う、うん。だから珍しいかなって思って、作ったんだけど」
「それが裏目にでちゃったわけね」
航海士はひょいっと自分の分のマグをビビの前で揺らした。ビビは瞬きした。航海士のマグにも、同じ液体が入っている。航海士はにっこり笑ってそれを口に運んだ。
「ビビ、いちごって果物よ」
「え」
「赤くてね、たねがいっぱいあるの。甘酸っぱくておいしいんだから。みかんには負けるけどね」
「え?ええ!?」
ビビは混乱していた。料理人はぽりぽりと頭をかいた。
「いやぁ、面目ねぇビビちゃん。驚かして」
「え、でも、え」
「大丈夫」
航海士はもう一口マグカップに口つけた。ほら、と航海士は笑う。
「さっきのドリンクと同じくらい、おいしいわよ」
促されて、うなずいて。おずおずとそれを口に運んだ。まろやかなミルクと共に、甘酸っぱい香りが広がる。ビビははっとなった。
「おいしい」
「よかったぁ」
料理人はほうっと安堵していた。航海士がそんな彼の肩をたたいてやる。ビビは申し訳なさそうに眉をさげた。
「ごめんなさい。ひどいこと言ったわ」
「ぜんぜん!まだ慣れてねぇだろうし!!信用してくれるまで待つから!!」
「……ありがとう」
料理人の優しい言葉にほうっと息をついた。そして飲み物を口に含み、ふっと口元を緩める。初めて飲んだ飲み物なのに、体がリラックスする。まるで、王宮でくつろいでいるような、そんな気分になる。
「不思議」
「へ?」
「……ううん、なんでもない」
日常を脱したはずなのに、日常に戻ったような安らいだ気分になるなんて。ビビは桜色の液体が入ったマグを見つめながら笑った。揺れる水面には、安堵する彼女の表情が写っていたという。
――
ビビちゃん搭乗率多いw