2015年兄さん誕1
□全てを消去
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コインが空に舞う。くるくると回転を帯びたそれは、嵐の風のあおりを受けながらもすうっと料理人の手の甲に返ってくる。それをじっと見つめるのは船長だ。いつになく厳しい顔つきでそれをにらんでいる。そして、ばしっと手に叩きつけられるようにコインは吸い込まれた。
「どっちだ」
「表」
すばやく言った。料理人がふっと笑ってくるりと手のひらを開ける。コインの向きは裏。船長は譲らない、と言った顔つきでそれを見てきた。
「約束だろ。船長」
「嫌だ」
「おれが勝ったら、おれが行くんだ。嵐で吹き飛んだお前の帽子を探しに、な」
「嫌だっ!!」
船長は強く首を振った。だが、料理人は聞かなかった。他の一味の姿はない。なぜか、と船長は考える間はなかった。今、目の前で仲間がどこかに行ってしまおうとしている。
「おとなしく、待ってろよ」
いつの間にか括りつけられたロープ。いやだ、また繰り返したが腕が動かない。いや、体が動かない。暗い海に、彼の体が沈んでいく。ロープは激しくしなり、やがてぶちりとちぎれた。
――
「いやだっ!!!!!!!」
「ぎゃあああああっ!!?」
船長はがばりと声を張り上げて起き上がった。狙撃手が瞬きしながらハンモックで息切れをしている船長を見ている。狙撃手は心配そうな顔つきになった。船長のハンモックに乗り込んでくる。
「どどどどうしたお前ななななんかあったのか。すんげぇ汗でて」
「サンジは!!!!!」
「え、あ、サンジ?今キッチンでメシの支度してるけど」
「……」
船長はぽかんと瞬きした。狙撃手がさらに繰り返し瞬きをする。
「よ、かった」
ほうっとした息が漏れて、彼はハンモックにへたり込む。狙撃手はじっと船長を見ながら未だ飲み込めないような顔つきをしていた。
「な、なんだ。サンジがどうかなる夢見てたのか」
「うん。でも、もうだいじょーぶだ」
船長は安心したような顔つきをしていた。狙撃手は相変わらず何が何なのかわからなそうだったが、とりあえず頷いて、
「ま、まぁ、ルフィ。安心しろよ」
「ん?してるぞ」
「そうじゃなくって」
狙撃手は胸を張って、いや、張っているように見せかけて体を震わせながら言った。
「サンジか誰かがあぶなくなったって、お前が動けなくったって、おれたちがぜったいどっかにいるからな!」
「!」
「だ、だから、な!」
「ウソップ」
船長はしししと笑った。
「ありがとうっ!!」
いつものように、弾んだ声。狙撃手の顔がぱぁっと明るくなった。船長はむくっと立ち上がって、狙撃手と肩を組む。
「よぉし!いくぞ朝飯!」
「おうよ!!」
船長の頭の中からは、すっかりと夢の内容は消え去っていた。
――
こんな船長を支えるウソップン好き。