2015年兄さん誕1

□背筋を伸ばす
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朝日がさんさんと路地を照らす。ゆっくりと息を吸い込んで、吐き出す。背筋をぴぃんと伸ばして、大声で叫んだ。

「いらっしゃいませ!!」

―――

ワンタイ島。朝から繁盛する粥の店があるらしい、客のほとんどは朝食がわりにそこを利用する。今日もたくさんの客が町を訪れていた。


「おい!挨拶が足りねぇぞ!」


「いらっしゃいませ!!」


オーナーの声につられるように、回りのしたっぱたちが一斉に大きな声を出し始める。その中でいっとう若い少年。名前をワンと言った。彼は、この店に惹かれて、したっぱとして働いている。まだ働き初めて一ヶ月。掃除や挨拶、注文と先払いの金勘定など、単純作業の毎日だったが、彼は腐らず仕事にとりくんでいた。


「おい、ワン。今日も頑張ってんなぁ」


「あ、ありがとうございます!」


「オーナー聞いたぜ!また一人腐ってやめたって?」


「あぁ。根性なしの話だ。もう忘れちまったよ!!」


オーナーはわりと豪快なさっぱりした人間だった。厳しいが教えることは教えてくれるし、仕事がしっかりできていれば修行もつけてくれるオーナーだ。だからやめるのはたいてい金稼ぎ目当てで仕事に入った中途半端な人間ばかりだった。


「いらっしゃいませ!」


そんなことをぶつぶつ考えている暇はない。新しい客に水を持っていかねば。グラスに水を注いで客に持っていく。金髪にスーツ。変わった風貌だ。


「お、さんきゅ」


「ご注文は」


「一番人気は?」


「ピータン粥ですね!」


「じゃあ、それ頼む」


「かしこまりましたっ!」


明らかにこの島の人間でない客だ。ワンは嬉しそうに金と注文を厨房に通した。最近は島の人間でない者もこの店を訪れる。それはこの店が有名になった、ということだ。嬉しいことに違いない。


「お客さん、どこから」


「東から」


「そりゃまた遠いなぁ。海賊か?」


「海賊がだめなら首振るぞ」


「どっちでも。客にかわりない」


「……わかる店で助かるよ」


どうやら来た客は海賊のようだ。ここにも何回か海賊は来たことがある。今まで暴れられたことはないが、乱暴な人間だとも聞くし。うーんと悩んでいたら、きちんと働けとふきんとげんこつがふってきた。痛い、とうめきながら、立ち去った所を片付ける。ぷぷっと隣ではさっきの客が笑っていた。


「わけぇのがいるなぁ。鍛えがいあるだろ」


「あー。まだとろいが真面目な分な」


「ははっ、おれとは大違いだ」


どうやら、先程の客はコックらしい。オーナーとの話でわかった。どうやら、他の仲間には内緒で朝食の研究をしているらしい。ここも昨日島の住民から聞いて、こっそり食べに来たようだった。


「なんだ、つれてくりゃよかったのに」


「冗談。破産する」


「ははっ。大飯食らいか。ほら、ピータン粥あがり」


「お、うまそー」


いただきます、と呟いて、息を散らしながら男はピータン粥を口に運ぶ。この店のピータン粥は、男たちが朝から動けるようにとしっかり具も大目にしてある。どうだ、と作ったわけでもないのにワンは自慢気だった。


「こりゃ目が覚めるな。旨い」


「どうも」


「塩漬け豚がまたいいな。あっさりしてんのに腹にたまる感じで」


男は嬉しそうに完食した。ワンは、美味しそうに食べるなぁと嬉しくなった。ふぅ、と息をついてごちそうさんと男は呻く。だが、席は立たず自分の方を見てきた。ニヤリと笑ってくる。ワンは、どう返せばいいかわからなくなった。


「うまそうに食ってたか?」


「え」


「おれ」


ワンは瞬きしていた。なんと返していいかわからなくなったからだ。だが、男は嬉しそうだった。


「おれがうめぇって感じるなら、ここはいい店だ」


「……!」


「しっかり技ぬすんじまえよ」


ワンは顔を輝かせて、こくんと頷いた。男は満足げに笑って、席を立つ。


「よし、明日はピータン粥作ってやるかな」


「おいおい、うちの客はとるなよ」


「とらねぇよ。おれには、出せねぇ味だ」


男はうんと背筋を伸ばして上機嫌で帰っていった。オーナーは嬉しそうに笑っていた。ワンは瞬きする。


「オーナー?」


「ワン。ありゃ大物だ」


「え?」


「どえらい客がきた。この店は、もっと繁盛するぞ!」


ワンはしらなかった。彼があの有名な麦わらの一味のコックであるということを。


――おれがうめぇって言うことは、いい店だ。


「……はい!」


でも、あの自信満々な顔から、どえらい客だと感じ取って、オーナーの言葉に頷いた。そして、彼はまた背筋を伸ばして、仕事に戻っていった。


――
もはや食べたこともないピータン粥なるものが食べたくて書いた話←

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