2015年兄さん誕1
□穢れ無きもの
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チョッパーは純粋な奴だ。これはうちの船員の誰もが認めてることだ。よくウソップのウソに騙されてるし、おれがちょっと冗談言ったら信じちまうし。まぁ、うちの船員はウソはウソでも悪いことは言わねぇから、大丈夫だとは思うんだがな。
例えば、だ。うちの船員以外の性質が悪いやつが妙なこと吹き込んだら、やべぇんじゃねぇのかとか。んなこと思っちまうわけだ。
だから、初めてやつが一人で本を買いに町を歩いてみてぇって言った時は正直ちょっと大丈夫かって思った。多分、ルフィ以外全員だと思う。あー、マリモも除いてか。
「気を付けてなチョッパー」
「なにかあったら戻ってきなさいね」
んな初めてのお使いみたいにウソップとナミさんが送り出して、奴はドキドキと不安を隠せないまま行ってきますと出掛けていった。
「大丈夫かねぇ」
「ついていきましょうか?」
「大丈夫だって!」
ルフィはししっとおれとロビンちゃんの背中を叩いた。自信満々にそう言うもんだからあんまり心配しないようにして、船番に戻った。
そしたら、だ。
「だだいまぁ」
不安的中。奴は泣きながら帰ってきた。リュックサックには何やらたくさんの品物を背負っている。飛び出してるさしと木の棒に、分厚い日記帳。重い鉄屑に重い辞書。それにビニールからつきだした鯛。よくわからねぇ、統一性皆無なものばかり。
「押し売りされちゃった?」
航海士の呆れたような言葉に奴は涙ながらに頷いた。どうやら、売り手のカモにされたようだ。あれが安い、買わなきゃ損、そんな文句につられてあっちにこっちに金を出してたら、足りなくなっちまったらしい。
「まったく……」
「ごべん、おで、大切なお小遣い……」
しょんぼりとした奴は変わらずぐずりながら言った。おれ達はうーんと励ます方法を考えた。なんで、ってこいつは押し売りとかどうのこうのなんか知らねぇわけだ。そういう人間から離れて暮らしてきたからな。だったら、教えなかった責任はあるだろ。
そしたら、ピンとひとつ来たんだ。
「チョッパー」
野郎にサービスは、めったにしねぇが、
「その鯛、いくらだ」
場合が、場合だからな。
「お、お、お!?」
「お前持っといたって仕方ねぇだろ。買ってやるよ。夜食用だ」
「い、いいのでっ」
「こう言うときは首縦に降るだけでいいんだよ」
ナイスなプリンスからの助言だ。そうウインクしてやれば、やつの顔はパアッと輝いた。まったく、世話が焼けるぜ。
「あ、ずりぃサンジ!じゃあおれもこのさしほしい!ウソップ様が言い値で買ってやろう」
「じゃあわたし航海日誌用に日記帳もらうわ。いくら、チョッパー?特別に出してあげるっ、ウソップが」
「なんでおれっ!?」
「なら私は辞書を」
「……鉄屑。金は後払い」
「じゃあおれ棒くれっ!金は宝払いだ!!」
そうしてるうちにチョッパーのリュックサックは空。手のひらの上にはお金と誓約書がこんもり。まったく、世話焼きな一味だな。
「……ありがとう!!」
「ししっ、今度は失敗すんなよ!」
そういうあいつは、嬉しそうに笑っていた。こうなることが、わかってた。そんな笑い方だった。
こうして純粋なチョッパーはひとつ学習した。失敗してもおれたちがフォローしてやれることを。
……なんて、な。柄じゃなかったか?
――
穢れなきもの。チョッパーは買い物という概念を知ってるのかしらん。