2015年兄さん誕1
□自分の歴史
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「すげぇぇ!!」
「お前字ィ読めたか」
「失敬だぞお前っ!多くなさすぎたら読めるんだ!」
「多かったら読めねぇのかよ!」
図書館にあるレシピを取りに行ってくるという料理人に、船長と狙撃手が興味深そうに着いていった。この会話はそこから始まっていた。図書館には彼らそれぞれの本のスペースがあって、開発した彼のレシピを書いた本も彼の一角にある。だが、
「サンジー」
「なんだ」
「お前さぁ、あんなにいろんな料理作れんのに、何でこんなにレシピ少ねぇんだ?もっといっぱいあるんじゃねぇのか?おれの想い出レシピーとかおれのお料理本ーとか」
狙撃手が首をかしげながら指摘する。確かに、料理人のレシピはとうに前から作られてきた筈なのに数が少なかった。一味として仲間に入ってきた時も荷物として大量のレシピ集を抱えていた記憶はない。衣類と包丁器材ケースくらいだ。メリー号の時だって、あの汚い男部屋で一度も観たことはなかったし。そう狙撃手が説明すれば、
「なんだ、そんなことか」
「なんでだ?」
「そりゃ」
料理人は、まばたきして至極当然と言うように、
「普通、覚えるだろ?」
「覚える!?」
狙撃手はぎょっとなった。冗談だろ、と思ったが、本人はさらりとそんなことをいってのけた上、何でそんなに驚いているんだという顔をしている。
「だってよ、何回も確認してたらクソ忙しいあのレストランで料理なんて出来ねぇよ。それに」
本棚まで歩き、船長が読みかけのレシピを取り上げる。
「何回も試作を重ねて失敗してりゃそりゃ覚えるだろ。うまい方法とかまずい方法とか」
「サンジでも失敗することあんのか?」
「あるさ。まずくはねぇが、納得できねぇ時とかな」
料理人は、 レシピをひょいっとつまんだ。パラパラと中身を見て、なにかを探す。
「だから、こうやって残しとくんだ。まだ改良の余地があるもんとか逆に一番うまくいったもんとかな」
「ほえー。じゃあ何回も試作してたら材料けっこうつか」
「あ、試作は全部食える量にしてるぜ。無駄にするのは論外だしな」
狙撃手はまたほえーと感心した。完璧そうに見える彼にも、失敗したり挑戦したりすることがあるのだ、と。
「よし。終わり」
料理人はぱたんとレシピのページを閉じた。そしてレシピ本を小脇に抱えて、瞬きしている二人にニッと笑いかける。
「これから、新作だ。できたら食うだろ」
二人は顔をパアッと輝かせて頷いた。
「おうっ!」
「試作もぜぇんぶ食うー!」
「……そうかい」
料理人は、口元をふっと緩めて、肩を組んでくる二人に囲まれながらキッチンに向かったという。
<end>
――
兄さんの歴史。このへんどうなのか知りたいなー。