2015年兄さん誕1
□生まれ出でるもの
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「さみしいの」
「へ?」
「側にいて」
料理人は、小さくまばたきをして、自分の頬をぐいぐいと引っ張ってから、やがて椅子に座った考古学者を見た。上気した頬、潤んだ瞳。これが恋!?なんてメロリンしていたが、いやいや落ち着け、と息をつく。今、他の一味は上陸中。確かに彼女にとっては静かで寂しい状況なのかもしれないが、何かおかしなことに違いはないと、慌てて考古学者を改めてみる。
「ロビンちゃん、もしかして」
「……」
「ごめんね」
料理人は、潤んだ瞳からそらすように彼女の額に触れた。熱い。触れただけでわかる。彼は病気になったことがない。だが、航海士の看病をした経験はあった。だから、考古学者の肩にふれ、言う。
「ロビンちゃん、ちょっと横になろう」
「・・・・・・」
「お布団かけて、あったかくして――」
「やだ」
料理人は、へ?と瞬きした。考古学者は、潤んだ瞳から涙を溢していた。料理人の表情がさぁっと青ざめる。
「え、あ、ロビンちゃん、おれ、そんな」
泣かせる真似させるなんて、そんなつもりじゃ。言い訳をたくさん並べる。だが、考古学者は、ぐずぐずと子供のように泣きじゃくっていた。
「やだ、やだよう」
「ロビンちゃん?」
「おいでがないで……!ひどりはやだっ!」
料理人は、はっと理解した。彼女は、生まれた時からひとりぼっちだったと聞く。すぐに意地悪な親類に預けられて、会えた親すらも友人すらも失い。だから、生まれた時から、今まで、熱の時はひとりぼっちにされていたのではないかと。もしかしたら、生まれ出でた場所に彼女は一時的に戻っているのではないか、と。
「……大丈夫」
料理人は、考古学者を撫でて立ち上がった。置いていかれる、そう思って立ち上がった考古学者をそっと優しく支えながら、
「おれたちは、ロビンちゃんを一人にしたりしねぇから」
「……!」
「一緒に、いるから。お布団いこう」
料理人は考古学者をゆっくりと保健室に招いた。彼女はおとなしく頷いて、彼と一緒に保健室に入り、ベッドに横になる。
「ほんとに、ひとりにしない?」
「しないさ。仲間がいっぱいいるからね」
子供のように尋ねる考古学者に笑いかけながら、料理人はふかふかの布団をかける。そして、ゆっくりと椅子をベッドに寄せた。
「ほら、こうしてるから」
「うん……」
考古学者は、すうっと安心したように眠った。料理人も安心したように息をつく。
「おやすみ、ロビンちゃん」
彼はそう言って、布団を二回優しく叩いた。彼女の居場所はちゃんとここにある。一人じゃない。そう示すように。
――
ロビンちゃんのちびっちゃいときはほんとかわいい。今もかわいい。