2015年兄さん誕1

□楽を奏でる
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『楽を奏でる』

スリラーバークを出たあと、剣士は気になることがひとつあった。大ダメージを負ってそれからを覚ました後、頭の中にあるメロディーが染み付いて離れなかった。それはまるで船乗りが鼻唄混じりで口ずさんでいるような陽気なメロディー。あと何か、楽器の音も聞こえたような。


「へぇ。お前でもそんなこと気にするのか」


「でも、は余計だ。アホ」


料理人にそのメロディーについて教えろといつものように迫れば、料理人は驚きながらそう返してきた。相変わらずカチンと来る返し方だと思いながら、こちらも煽るような答え方をする。そうすれば、応対が面倒になったのか、素直に答えてくる。


「……ビンクスの酒って歌だ」


「ビンクス?」


「海賊の中じゃ有名な歌だよ。知らねぇのか?」


そんなことを言われても彼はずっとその海賊を狩る立場であったし、海賊になってこのかた、こんな歌など聞いたことがなかったのだ。料理人や狙撃手みたいに、海賊の知り合いがいるわけでもないし。そんな言い訳を頭の中で並べていると、料理人は呆れたようにタバコをふかしていた。


「まぁ、そんなに気になるんなら、新しい音楽家に聞け。きっと答えて」


「お呼びですかぁ?」


「はぇぇなおい!」


いつの間にかドア口からごきげんようした音楽家に料理人はツッコむ。相変わらずあからさまに妙な姿だが、もう見慣れてしまった自分たちに驚いてしまう。


「このマリモが聞きたいことあんだと」


料理人はそれだけ言って、航海士のお茶の時間だと何やらグラスを持って去っていった。剣士はうるさいのがいなくなったと呟いてから、ごほんと咳払いする。


「マリモ以外は事実だ」


「なんでしょうか!なぁんでもどうぞ!今日のパンツの柄から朝の紅茶の茶葉まで!なんでもお答えしますっ!」


テンションが相変わらず高いガイコツだと剣士は思った。だが、それはツッコまないまま、問う。


「ビンクスの酒って歌について知りてぇ」


「ヨホ!そんなの喜んで!」


音楽家は嬉しそうに骨ばった顔を緩ませた。


「ビンクスの酒は、私のだぁいすきな歌で、命の歌なんですよ」


「命の歌?」


「えぇ。私、同じくビンクスの酒がだぁいすきな仲間に届けるために骨になってまで生き返ったと言ってもいいくらいですから」


誰に届けるかはだいたい剣士にはわかっていた。ダメージを食らう前、音楽家が双子岬で出会った鯨のラプーンの待ち人だと話があったからだ。


「なるほど、よくわかった」


剣士は納得して音楽家に呻いた。だいたいビンクスの酒がどんな歌かわかった。ならば、次にやることは一つしかない。


「次は、聞かせてくれ」


「ヨホ!リクエスト承りました!」


音楽家は嬉しそうに骨の足を弾ませながら笑った。そして、バイオリンを取り出し、軽快なリズムで弾き始める。鼻唄混じりで、弾むように。メロディーが頭の中でかちりと重なった。


「ゾロさんも、早く歌えるようになってくださいね!」


前奏を奏でながら、音楽家が剣士の方を見た。


「宴の定番曲に、なりそうですから!」


「・・・・・・わかった」


剣士は納得し、音楽家の奏でる音楽を静かに聞いて満足げな顔をしていた。


その後数日間、トレーニングルームからちいさちいさな歌声が、時々聞こえたと言う。


――
マリモが歌うのいっつもかわいいと思う@キャラソン

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