2015年兄さん誕1
□レースのカーテン
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ある日のこと。料理人が少し休憩がてら日の光を浴びようと甲板に出てみると、船医が困った表情で立っていた。よくよく観察してみれば、立っているだけではなさそうだ。あっちにうろうろしては、どうしようと呟き、こっちにうろうろしている。料理人は、せっかく休憩しようと思ったのにすっかり船医の様子が気になってしまった。まったく、と呻きながら、どっちにうろうろするかわからぬ間に、側に近づいた。
「おい、チョッパー。どうした」
「あ、サンジ。どうしよう……」
すると、彼は料理人に気づいて返事を示した。そして、さらに料理人が追求する前に、あるものを見せてきた。料理人は、瞬きする。
「レースの、カーテン?」
「うん」
彼が見せたのは、この船には正直似つかわしくないレースのカーテンだった。丈が珍獣型の船医の身長より長く、ずりずりと床に引こずられている。穴が開くからもういいとカーテンをたたみながら、問う。
「あのな、保健室のベッドをこれで囲ってみようと思ったんだけど」
「ん」
「付け方もわからないし、長さもすごく足りないんだ」
そう説明されながら保健室に招かれ、指を指される。確認してみればたしかにそうだ。まず、カーテンを取り付けるレールがない。それに、180センチメートルある料理人の身長よりもカーテンがかなり短い。たとえレールを買ってカーテンをつけても、隠すはずのベッドが見えてしまう。これではまったく、カーテンの意味がない。
「でも、カーテン捨てるのもったいないなって」
「んー……気持ちはわかるけどよ」
料理人は悩んだ。使う場所がない。部屋の窓はどれも小さくつける場所がない。浴室、すぐに破かれるのが目にみえてしまう。キッチン、いちいち開けるのがおっくうだ。やっぱり、どこにもない。
「やっぱり、捨てるしかないのかな」
船医はしょんぼりしながら言った。料理人は、うーんと考え込んだ。何か、ないか。保健室のあちこちに視線を配れば、船医のテーブルを見て、あ、と呻く。
「チョッパー、カーテン貸せ」
「お、おお?」
料理人は、カーテンをキッチンに運んだ。小さなテーブルを出して、そこにレースのカーテンを開いてかける。
「やっぱり、切らねぇといけねぇが、使えそうだな」
「おおお!」
船医は感心した声をあげた。テーブルの上にかけるだけで、テーブルが華やかになった気がする。似つかわしくないはずのレースも、テーブルと一緒なら自然だ。
「じゃあ、ここでお茶休憩といくか?船医殿」
「いくっ!ありがとうサンジっ!」
即席のレースのテーブルクロスの上。船医と料理人はそれに合った綺麗な陶器のティーセットで、優雅にお茶を楽しんだという。
―――
ほのぼのー。