2015年兄さん誕1
□書をしたためる
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『書をしたためる』
図書室。ここは、サニー号の中でも静かな場所の一つだ。みかん畑、たくさんみかん狙いの男どもが集まる。地下室、発明発明と楽しそうな男たちが集まる。女部屋、考古学者と一緒についついたくさんおしゃべりしてしまう。やっぱりここが、一番静かな場所に違いない。何やら書き物をしている様子の航海士は再度確信した。かりかり、とペンを動かす音だけが響き、甲板の騒がしさからは確実に切り離されている。
「……ふう」
航海士は息をついた。だいぶ集中していたようだ。お茶が飲みたい、なんて少し思ってしまった。すると、図書館の前にちらっと近づく金色の髪。航海士はじぃっとそれを見た。
「入っていいわよ、サンジ君」
影が、びくっと揺れた。おぼんを持った料理人がおずおずと入ってくる。
「遠慮しなくてもいいのに。飲み物もってきてくれたんでしょ」
「だって、ナミすわんの真剣な横顔があまりにもすて」
「はいはい」
つん、と肩に触れてみればスーツが冷えてきた。少し前からいたのだろう。外はだいぶ風が冷たいから。航海士はむすっとした。
「もう、こんなに冷えて」
「おれ北の海出身だから、寒さは平気」
「東の海育ちだったらそう変わんないでしょ。はい、座って。あんたも温まっていきなさい」
「あ、ありがとう!!」
料理人は、おぼんを置いた。ずらずらと並べられた湯沸しやらティーポットやらに苦笑する。どうやら冷えると踏んでここで淹れる気だったようだ。どこまで気づかいに関しては真面目な男だと笑ってしまう。
「サンジ君、今日のお茶は?」
「しょうが紅茶。あたたまるよぉ!!」
料理人はてきぱきと準備を進める。これならもう少し書き進めても大丈夫。航海士はそう思って先ほどの書き物の続きを取り出した。料理人がお湯を沸かしながら興味深そうにそちらを見やる。
「航海日誌?」
「ええ。毎日ちゃぁんとつけてるわよ」
「おれとナミすわんの愛の歴史だぬげふっ」
料理人はすばやく殴られた。愛の拳だ、と喜んでいる間に、航海士はさらさらと今日のことを
続けて書いていく。
「読んでいい?」
「読めるように図書館に置いてるのよ」
「なるほど、さすがナミすわん!頭いい!!」
「普通よ普通」
航海士は、ことんとペンを置いた。どうやらお湯が沸いたらしい。紅茶のいい葉の香りを楽しみながら日誌を書いていると、料理人が楽しそうに航海日誌に目を通していた。
「すごいなぁ、ナミさん。クソゴムが海に落ちるとか、マリモのトレーニングまで書いてるなんて」
「結構書くことあるのよあいつら。他の船員との会話とか」
「細かいとこまで見てんだなぁ。おれは野郎はさっぱりだ」
「あら、この間海に落ちたルフィを一番に助けにいったのあんたでしょ」
「そ、そんなとこまで!?」
「どうかしら」
航海士はいたずらっぽく笑った。ナミすわん、と困ったような声を出しながら、料理人は紅茶を入れ、そこにしょうが汁をそっと加えた。そして、はちみつを入れて。
「できた?」
「うん、あったまってねぇ!!」
料理人は、そっとカップを差し出した。航海士はふーっと湯気を息で散らして、一口含む。しょうがの力か、一口でつま先の方まで温かさが広がった。
「おいしい……ちょっと、サンジ君」
「!!」
航海日誌がやっぱり気になるらしい料理人は、そっとページをつまみ上げたまま固まっていた。航海士はくすっと笑って、
「あんたのティーカップも持ってきなさいよ」
「え」
「一緒に飲みながら、一緒に見ましょ」
「は、はぁーいっ!!!!」
料理人は嬉しそうに声と足を弾ませた。航海士からのお茶会のお誘い。彼が断わるはずがない。猛スピードでキッチンにティーカップを取りに向かった。航海士は笑いながら、紅茶を一口飲み、そっと航海日誌に次の一文を付け足した。
「午後2時。サンジ君と、お茶会。」
――
書をしたため、てるよね、たぶん。