2015年兄さん誕1
□全ては偽り
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『すべては偽り』(メリー時代)
「ウソップ、どうしたんだ?ほっぺた」
「え、あ、ちょっとな」
キッチンで料理人と一緒に船番をしていた船医が、心配そうに狙撃手に近寄る。買い物から帰ってきた狙撃手の頬は、真っ赤に腫れていた。まるで誰かに殴られたような、そんな痕。よく見ると手や足にもあざがたくさんついている。
「誰かにやられたのか!?こ、こわい海賊とか海軍とかいたのか!?」
「えーっと、な……」
狙撃手は言いにくそうに船医を見た。料理人はじっとその様子を見てぼそりという。
「転んだんだろ」
「え!?転んだだけでそんなに!?」
船医はおろおろと心配そうな顔を隠さなかった。料理人は、煙草に火をつけながら、
「偉大なる航路はどんな障害物があるかわかんねぇからな。だろ、ウソップ」
「え、あ、そうだ!やっぱりサンジにはばれちまうなぁ!!」
狙撃手はからからと笑った。心配そうな船医の側にそっと腰かける。そして、明るい口調でこう言った。
「おれは、先を急いでたんだ。速く島に行かねぇと、新鮮な卵やら火薬やらが買い占められちまうから。そしたらな、でっけぇ木箱にひっそり隠れてた、チョッパーが大きくなったくらいの化け猫に躓いて、殴られ、ひっかかれちまったんだ!」
狙撃手の口からすらすら出てくる言葉。船医は顔を驚きに満ちさせた。
「ほんとかー!!!その猫どうなったんだ!?」
「もちろんおれがおとなしくさせて飼い主のばあさんに返したさ!!何せおれはキャプテーンウソップだからな!!いくらねこがおれのつまづきやすい場所にいて、こかしたとしても、やさしく返してやるのさ!!」
「うぉー!!ウソップすげぇぞ!!!でも、そのケガ……」
「平気だ!そのばあさんが詫びに治療してくれたからなー!!でも、絆創膏が一つ欲しいな、チョッパー」
「うん!!一応看たいからいろいろとってくるっ!!」
「おう、ありがとなっ」
船医は男部屋に駆け込んでいった。料理人は、ちらっとそれを見送って、ふうと息をつく。
「はい、よくできました」
そう料理人が言った途端、狙撃手は顔を涙でぐしゃぐしゃにした。
「さんじぃぃ!!ずまねぇぇ!!」
「で、本当は何があったんだ」
料理人が問えば、狙撃手はぐずっと涙を啜りながらこう話した。
本当は、どこぞの動物ハンターに船医が狙われているという話を耳にした。彼を捕まえて高く売れば、自分は儲けることができる。船医は薬を飲まされたり、打たれたりして、きっと酷い目に合わされるはずだ。そう話しているのを聞いてしまって、居ても立っても居られなくなり、思わず飛び出していってしまったのだ、と。
「それで」
「つかまって、かえりうち。何とか逃げてこれたんだ。情けねぇけど」
「そうか」
料理人は、静かに踵を整えた。狙撃手の頭をぽんと叩いて、立ち上がる。頑張ったな、あとは任せろ、言葉なしでもそう伝わってきて、狙撃手は思わず震えてしまう。
「夕飯までには、戻る」
歩き出しかけた料理人。狙撃手は慌てるように続いた。
「サ、サンジ、お、おれも」
ついていく、足手まといになるかもしれねぇけど、そうネガティブな言葉を付け足して言おうとしたが、料理人は何言ってんだ、と頭を小突いた。
「援護は必要に決まってんだろ、アホ」
料理人の言葉に、狙撃手は顔を輝かせた。料理人に追いつくように並ぶ。
「あ、当たり前だ!!サンジがビビってねぇか確認したんだっ」
「そうか、お」
そう言葉をかわしながら彼らが甲板に出ると、船医がきょとんとした顔をしていた。
「え!?どこか出かけるのか!?」
船医の言葉に、二人は顔を見合わせてにっと笑った。
「ちょっと」
「ネコ退治に」
「ええ!?また逃げたのかっ!!け、けがしないようにな!!」
船医がどういっていいのかわからないまま言葉を返せば、二人は親指を立てて船を後にした。
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