2015年兄さん誕1
□王の城
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『王の城』
「ルフィ、またそこいんのか」
「ん!!ここはおれの特等席なんだっ!!」
まったりと太陽が動く中。船長はべたーんと船首にうつぶせになっていた。彼は、この場所がメリー号の時から好きだった。彼はその場所を特等席と呼び、暇なときはそこでまったりとくつろいでいた。昼寝をしたり、釣りをしたり。時には海を眺めるだけでも楽しい。なんでも好きなことをしていい場所だった。
「お前の城だな、そこは」
料理人がそんな船長に話しかける。船長は聞きなれない言葉にがばっと体を起こした。
「しろ?そんなにおっきくねぇぞ」
「もののたとえだよ。自分の場所だって言うと
きに、おれの城って言ったりするだろ」
「言うのか」
「言うんだよ」
料理人がちょっと呆れながら言えば、船長は嬉しそうに笑った。
「じゃあ、ここ」
たてがみがはみ出す、小さな場所。それでも、大好きな場所。
「海賊王の城になるんだな!!」
どん、と立って、そんなことを言う。あぶねぇぞ、と言いながらも料理人は笑って同意した。
「……そうだな」
「ししし」
船長は同意してもらって嬉しそうにして、ぴょんとまた座り込んだ。すると、料理人、そんな船長の動きを見て、ひょいと船首に跳んだ。瞬きした船長をむんずとひっつかむ。船長はむっとした顔になった。
「なんだよ!!サンジ!!」
「わりぃが、もうちょっとで嵐だそうで、キッチンに回収」
船長はふくれっ面をした。キッチンから航海士が手招きするように手を動かしている。なるほど、料理人は航海士に頼まれて、ここに来たようだ。それはそうだ。嵐の中、海に落っこちられては回収するのが大変だ。でも、船長は嵐が来ようがここを明け渡すつもりはないらしい。またべたんぎゅーっと船首に張り付いて言い張った。
「いやだっ!!ここにいる!!」
料理人はそんな船長を見て何かたくらんだ顔をした。そっと彼の耳に口元を近づけ、ささやく。
「そりゃ、実に残念」
「!」
「たぁっぷりベリーのパウンドケーキを、焼き立てで提供する予定なんだが……」
「食う!!!!!」
船長はがばっと体を起こし、キッチンに走って行った。まさに10秒かかるか、かからないかの速さ。航海士が料理人に親指を立ててよくやったと合図してくれた。メロリンしながら、ちらっと空っぽになった船首を見やる。
「ただいま、王はお出かけ中です」
料理人はそうつぶやきながらからから笑って、彼の後を追った。雲が彼らを見送るように、ごうごうと音を立てて動いていた。
――
今回のお題、一筋縄ではいかなそうだ……。