兄さん誕生日その3

□一つとない
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「でも、なんであんな真似したんだ?」


料理人が訝しげに尋ねると、船長は一味全員をぐるっと見渡した。各々が頷いたのを確認すると、船長は料理人をまっすぐ見て問うた。


「明日、何の日かわかるか?」


「え?」


料理人が首を傾げて応じれば、やっぱり、とため息が漏れた。船長がニィっと笑う。


「明日なっ、お前の誕生日なんだぞっ」


「え……!?」


料理人は唖然として目を大きく見開いた。指で日にちを数え、困ったように呟く。


「えと、今日3月1日…だよな」


「なんだい、さっきチョコレートに書いてくれたじゃないか」


「……まさか」


料理人は慌てたようになり、船長達の方を向いた。


「サプライズ、か?」


「うん」


船長が頷けば、料理人は、ぽかんと口をあげ、瞳を見開いた。後、息を吐き出して思わず身体を床に倒す。一味はぎょっとした。


「サ、サンジ!?」


「ど、どうしたんだ!?またしんどくなったのか!?」


ぎゃーぎゃー騒ぎはじめるが、料理人は額に手を置いて笑いはじめた。


「ははっ…」


「サ、サンジ?」


「やられちまった…せっかく誕生日が大切だって学んだのに」


「………」


マカルが静かに彼を見つめて苦笑を漏らし、抱き着いたままの男が、瞬きしている。


「おれのを忘れちゃ、世話ねぇよな」


そうやって頭をかきながら笑う料理人を見て、


「…ししっ」


船長は嬉しそうに笑い、一味もまた、嬉しそうに笑った。ただ、仲直りの後、彼も仲間も、互いに責め合うことはなかった。


――――
一つとない。
辞書調べてもなかったので、二つとないに近い意味でとり、かつそんな考えなど一つもないと言う意味でとってみました。


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