兄さん誕生日その3

□限りある
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「やっぱりそのあとも、息子は私と旦那の誕生日の度に会いに来てくれた。ご馳走を持って。わたしはケーキを焼いて、それを待つ」


「………」


「ところが今年は、電伝虫に連絡が来たのさ。『会いに行けないかもしれない』って」


マカルが悲しげに言うのを、料理人は静かに聞いていたが。


「…ばあさん。誕生日、今日なのかい?」


「そうさ。でも、こんな婆の誕生日だよ?祝って何になるんだい」


マカルは強気な口調だったが、やはり顔は悲しげで。


「息子の声が聞けただけで、嬉しいよ。さ、夕飯を作るかねぇ。疲れただろう。あんたはもう少し、寝といていいよ」


マカルはそう言って立ち上がったが、一方で料理人も、ミルクを一気に飲み干し立ち上がった。首を傾げたマカルの両肩をそっと掴んで、しゃがんで視線を合わせる。


「…なぁ、ばあさん。おれにさ、今日のディナー、任せてもらえねぇかな」


「え……」


「一緒に誕生日宴やろうぜ。役不足かもだけどな」


ニッと笑顔を浮かべながら料理人は言う。マカルは料理人をじっと見つめ、それが真剣に言っていることを確かめる。


「…ははっ」


やがて、マカルは口元を緩めた。きょとんとした料理人の肩を嬉しそうにばふばふ叩く。


「気遣いありがとう。あんた助けてよかったよ。気のいい若者見ると元気が出るね」


「いや、命助けてもらっといてたいしたことできねぇからさ。…あ、これ、移る病気じゃねぇよな?」


料理人が少し慌てた表情になれば、マカルはふっと笑った。


「…移らないし、もう毒花粉は消えてるよ。じゃあ、お願いしようか。無理しない程度にね」


「…おう。任せろ」


料理人はニッと笑って踵を返し、冷蔵庫を開けた。小麦にバターに牛乳にレーズンにイーストに卵にハチミツにチーズ。キノコや野菜は充実していて、肉は鶏肉とベーコンの塊が。そして、棚を開ければ、ふわふわした白いパンとブイヨンが姿を見せて。料理人はおぉ、と感嘆の声を上げた。


「うまそうな白パンだな。これ夕飯に使うのか」


「その予定だよ。あとはシチューにしようと思ってたんだ」


「いいじゃねぇか。宴にもぴったしだ。じゃあ、おれはシチューとサラダと」


シチューの材料とサラダの材料をより分けて、そして残った食材を数えて満足げに頷いた。


「ばあさん、ケーキも作るぜ」


「嬉しいけど、生クリームないよ。息子が来ないっていうから、お茶に入れちゃって」


マカルがぽつんと言えば、料理人はニィっと笑った。


「限りある食材でうまい料理を作るのが、コックだぜ。ばあさん」


「…!」


「まかせときなって。クソうめェケーキ作るから」


くるくるっと泡立て器を回転させボールをだしはじめた料理人を見て、マカルは嬉しそうに口元を緩ませた。


――――
限りある。お礼のケーキ&ディナー作り。


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