兄さん誕生日その3

□距離感
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太陽が高く昇り、森に和らいだ陽射しが差し込む3月1日午後1時のサニー号。一味はとある新世界の無人島らしき場所についたばかりだった。そこは、見た目森しかなく、停泊するところも苔でびっしり覆われていて。新世界の中で植物のメッカと呼ばれる所らしいと、考古学者が一味全員に漏らしていた。


そんな、昼過ぎにて。


「えっ、食材探しに行くの?こんな時間に?」


「あぁ。暇だしなー。なんか、ここ最近ナミすわん以外みんなおれに冷たいし」


眼鏡をそっと髪の間に通し。水筒に熱いお茶を入れ、リュックサックに軍手やらタオルやらを詰め込みながら料理人が航海士に苦笑した。確かに昼食が終わったばかりなのに既に航海士以外の一味の人影はなく、甲板も彼を避けるようにがらんとしている。


「ここ最近さ、メシ中はいつも通りなんだけど、近づくとびくびく震えられて逃げられるし。イマイチ気分よくねぇんだ。なんかしたとも思い浮かばねぇし」


料理人が眼鏡をいじりながら淡々と思い返すように言うのを、航海士は複雑そうな表情で聞いていた。


「だから、こういう形でちょっと席を外して考えてみるよ。おやつ置いとくから、頼むね」


航海士はちらと医療室を見、少し大きめのリュックサックを背負った料理人を再度見ながら慌てる。


「あ、あんまり気にすることないと思うけど…本当に一人で大丈夫?新世界よ?食料はあるんだから無理に行く必要ないし、だれか呼んできたって。あっ、私がついて…」


「大丈夫だよう、ナミすわんっ!!心配ありがとお!!それにナミすわんを危ない目に合わせるわけにはいかないよう!」


眼鏡の下、目をハートにした料理人を見ても、航海士は心配を隠せなかったが。


「じゃあ、どうしても行くんなら、とりあえず子電伝虫つけときなさい。何かあったらすぐ連絡よこすのよ。ぜったいよ」


「はーいっ。行ってきます!!」


勢いよくドアを開けて、料理人は森の方に向かって行った。彼が森の木々の中に消えていくのを見送った後、航海士はため息を漏らし、つぶやく。


「あんた達、あからさますぎ下手くそ過ぎよ。サンジ君明らかに落ち込んでるじゃない」


「うぁぁぁん!」


「あんなにおぢごむなんで…!!」


「ずびばぜん…心がいだい…ホネでも心はあるんでず」


「だってよぉ…サンジ鋭いから…こんくらいやらなきゃ気づかれれ…」


「ごべんよぉ…サンジィ…!!」


医療室の扉からなだれだした、涙を流す5人と呆れる剣士と苦笑する考古学者。彼等は輪かざりや星の銀紙、お魚の折り紙やプレゼントの箱を手にいっぱい抱えていた。航海士がもう、と呆れたため息を漏らす。


「もしサンジ君になんかあったらどうするのよ。いくら強いからって、新世界よ。危なくなっても困っても連絡寄越さないかも…」


「!!!!」


五人の顔がさらにショックを受けた顔になった。どうしようどうしようと右往左往で慌て始め、抱き合って泣き叫んでいる。剣士はその様子を見てため息をついた。


「どうすんだ、ナミ」


「どうしましょうか。あいつら悪いけど、私も止めるべきだったわ…」


「今更悔やんだって仕方ねぇだろ」


「で、でもさ、ここがわりと安全な島なら、サンジなら問題ねぇだろ、な、な?そだろ?」


狙撃手が航海士と剣士の会話に割って入り、そう願うかのように考古学者の方を見る。考古学者は心配そうに島の方を見て、


「…もう少し、調べてみましょうか。コックさんに連絡をとってみてから探しに行くで、いいわね?」


「そーだな。すぐにサンジ連れ戻して、一日早くやろう!!そしたらだいじょうぶだ!」


「ベストアイデアだ、ルフィ!これでサンジの誤解も解けるし、サンジも喜んでくれるしなっ!!」


「おぉぉぉぉ!!」


「おぉぉぉぉ!!」


「…そううまく、行くといいけどな」


「あぁ」


剣士がちら、と窓を見遣る。深い深い森から、妙な何かがはいずる音がして、消えた。


――――
誕生日記念なのに多少シリアス。後ほっこりを目指します。
まずは距離感。


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