連載1

□彼女は振り向かなかった
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 胸騒ぎが、した。ユーフェミア様の、あの時の事件と同じような感覚だ。だからわたしは苦しくなって、その場に座り込んだ。

「どうされたのですか、なまえさん……!」
「ごめん、ナナリー、なんでもないよ」

 どくり、と心臓が大きく音を立てる。ナナリーは心配そうにしていて、わたしを気遣かってくれた。騎士であるわたしが皇女殿下に心配されるなんてあってはならない。そう考えて立ち上がり、わたしはナナリーの柔らかな髪をそっと撫でた。
 C.C.が居たら、わたしはすべての悲劇からルルーシュを守ることができたのだろうか。ふと、この世界に来る前のことを思い出す。



「C.C.は、わたしのこと、すき?」
「もちろんさ、なまえ」

 優しく微笑んで、わたしの頭を撫でる彼女。わたしの母親であり、友達でもある人だ。わたしの記憶には鍵がかけられていて、生まれた時のことや自分に関する詳細の情報はまったくない。けれど、C.C.は僅かではあるが、わたしにそれを教えてくれた。

「これからお前の力が必要になってくる。その時は、どんなことがあっても力を貸してくれないか?」
「それは、C.C.をたすけてあげられること?」
「そうだな、わたしも助けられるのかもしれない。だが、なまえが守るのはルルーシュだ」
「る、るー……?」
「そしてこの世界の平和も」
「へいわ?」

 C.C.の言葉に、幼いわたしは所々意味が分からず、首を傾げる。そうしたら彼女はくすくすと笑う。

「まだ知らなくていい、その時が来たら教えるよ」

 そう言って歩を進める彼女の背中はどことなく儚げで、離れてしまうともう二度と会えなくなってしまいそうな、そんな気がした。

「行かないで、C.C.」

 不安になったわたしはぽつりと呟く。けれどその言葉はC.C.の耳には届いていないようで、彼女が振り返ることはなかった。

 そう、その時わたしは胸騒ぎを覚えた。彼女をいつか失ってしまう。だから彼女に振り返って笑ってほしかったのに。

 


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