連載1

□聞こえた声が懐かしい
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 キューピッドの日、それは俺にとっては地獄だ。どういう訳か生徒会長は、俺を捕まえるように全校生徒に放送で伝えたのだ。そのおかげで俺は大勢の生徒たちに追い回されることとなったのだが、とりあえずこの場は佐世子に任せよう。そう考えて、隠れた一室のある図書館へとやってきた。しかし、机と机の間に、今日この学園の生徒たちがかぶることを強いられているハート型の帽子を見つけて、俺は静かにそちらへ歩み寄る。桃色の帽子であるから、女だとは思う。まさか、待ち伏せか。そこでひょっこりと顔を出したのは、

「なまえ、どうしたんだ? こんな所で」
「わ、ルルーシュか。よかったぁ」
「なんだ。お前も追われている立場なのか」
「まあ……なんとか逃げてきたんだけど」

 安堵したような彼女の表情を見ていると、心が温まる。しかし、彼女が記憶喪失であることを知ってから、なんとなく接しづらいのだ。以前の彼女ではないと思うと、どこまで彼女に踏み入っていいのか、分からない。

「何よ、ルルーシュ。情けない顔して」
「え、」
「顔、なんか悲しそうだった」
「そう、か。すまない」

 ゼロである以上、俺は嘘をついて騙しながら生きる。その上では感情を表に出さないことはとても重要なのだが、俺はなまえを前にするとどうしても正直になってしまうようだった。
 しかし困った。なまえが居ては、佐世子と入れ代わることができない。今の彼女が敵か味方かを判断できない状態でそんな怪しい行動をしては、俺がゼロだと気付かれてしまう。

「今のゼロは、ルルーシュなの?」

 その時、唐突になまえにそう言われて、俺は動揺を隠せなかった。

「そんなに驚かなくてもいいでしょ? わたしは黒の騎士団に居たんだから」
「なまえ、お前記憶が」
「戻ったよ、全部。だからルルーシュ、わたしはあなたの敵じゃない」

 でも今は味方とも言えないかもしれないけど、と。そう付け足したなまえは明るい笑顔を向けてくる。
 初めて彼女の笑顔を見た時、心が救われるような気がした。そんな笑顔を持っている彼女だから、俺は惹かれたのかもしれない。

 今は大罪を犯してしまったが、俺は彼女に救われたいから側に居たいと願うのだろうか。

(ナナリーの前では泣いちゃだめ。笑ってあげてね)

 昔の懐かしい、彼女の優しくて温かい声が聞こえた。

 


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