連載1

□何も知らないお姫様
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「随分と帰りが遅いんだね」

 なまえの帰りを部屋で待っていた僕は、彼女が扉を開いた瞬間にそんな言葉を口にした。

 偶然見た、ジノとなまえの姿。とても楽しそうに二人で外出していく様子は、まるで恋人同士のようだった。いつ、どこで知り合ったのか。ここでは僕以外を知らないなまえが、ジノに心を許しているように見えて苦しかった。

「ごめん、スザク。今日はジノとね」
「デート? 何、ジノのことが好きなんだ」
「……すざ、く?」

 普段の僕とは様子が違うことを悟って、なまえの声が少し上擦る。ゆっくりとなまえに歩み寄れば、彼女は一歩後ずさる。しかし背後にはすぐ壁があって、彼女の逃げ場はどこにもない。

「ねぇなまえ、僕がどんな思いでいるか、君に分かるかい?」

 そう尋ねても返事はない。
 記憶喪失になってから今まで、僕は彼女を誰のところへも行かせないように守ってきた。大きな瞳に僕だけを映して、僕だけを信じる。そんな彼女が欲しかった。それは最近思い始めたことなんかではない。初めて出会った、8年前のあの日から、ずっとそう思っていたのだ。

「ルルーシュは君を悩ませて苦しめる。ユフィのことも、そうだ」
「何を、」
「だから君は永遠に記憶を失ったままでいい。そうすればずっと君は幸せでいられるんだ」

 逃げ場をなくしたなまえを更に追い詰めるように、僕は彼女の顔の横に手をついた。驚いたような表情で僕を見る瞳を涙で歪ませたいと思う。いつの間に僕は、こんなに醜い感情を抱くようになったのだろうか。

「なまえだって僕と幸せになりたいはずだ。だからつらい記憶を手放して、記憶喪失になったんだ」

 そう言って彼女の顎を掴んで強引に上向かせる。無理矢理でも、自分のものにしてしまおう。そんな考えが頭を過ぎるが、僕にそれはできなかった。だって、彼女が泣いていたから。

 

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