連載1

□何も知らないお姫様
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「わ、わたし、スザクが何を言ってるのか……分からない」

 ぽろぽろと涙をこぼすその姿は、幼い頃から今の今まで、僕は一度も見たことがなかった。だからそこで悪いことをしてしまったことに気が付いて、僕はそのまま俯いた。そして目に入る。彼女に手にある、小さな紙袋。

「ジノは今日、友達になった人なの……スザクを知っているから悪い人じゃないと思って、わたし、」

 僕の胸に彼女が持っていた紙袋が押し当てられる。なまえは涙を拭うこともなく、その紙袋を開くよう、僕に促した。僕はそれを受け取って中にあるものを取り出す。それは小さな四つ葉のクローバーの飾りがついた、ストラップだった。

「それ、ジノと買いに行ったの」
「これを僕に……?」
「スザクに恩返ししたいけど、一人で外出はだめだって言われてたから、ジノと」

 そこまで聞いて、僕はとんでもない勘違いをしていたことを知る。嫉妬に狂って、彼女を信用することを忘れてしまっていた。なんて愚かなのだろうか。

「ごめん、なまえ……本当にごめん」
「いい、スザクに心配かけたのはわたしだから」

 涙をこぼしながら震える体をそっと抱いて、再び僕は謝罪の言葉を口にした。

 彼女と一緒に居る日が一日、また一日と過ぎていく度に、僕の醜い嫉妬心も少しずつ膨れ上がっていく。そうして今よりももっとその感情が大きくなった時、僕は彼女を傷付けてしまいそうでとても怖い。
 だからどうか、早く記憶を取り戻して。


(記憶を失ったままでいい、そんな想いは嘘か誠か)

 

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