これでも本気です
□序章〜入学式〜
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待ちに待った入学式、僕中島 広(なかじま ひろし)は一人、門をくぐった。
新しい制服、新しい景色、何もかもが新鮮でクラスメイトや先生達に会うのが楽しみである。
入学説明会でクラスメイトや寮の同室者はあらかじめ把握しているが、制服姿は見たことがないため、また違ったように見えるかもしれない。
(ん…?あそこにいるのは…)
入学説明会で誰にでも笑顔で話しかけていた大野 南(おおの みなみ)君ではなかろうか。
背の低い彼は、逆に目立つもので、ぎゃあぎゃあとはしゃいでいるのを見ると微笑ましいものである。
「おはよう、南君、航君」
「あ!広君!おはよう」
「おはよ…」
南君の横であくびをしているは福山 航(ふくやま わたる)君だ。
彼は南君と違って人を寄せ付けないタイプだが、悪い人ではないのを僕は知っている。
「入学式だよー!楽しみ!」
「僕も楽しみだな」
「航も楽しみだよね?」
「…俺は別に…」
しかし疑問だ。
なぜこうもタイプの違う人同士が仲良しなのか。
航君の内向的な部分を南君が上手くフォローしているのは分かる。結果的に一緒にいてちょうどいいことは分かるのだが、仲がいい理由が知りたい。
航君が南君を受け入れた理由が知りたい。
「ねぇ、航君と南君の出会いを知りたいな」
「出会い?」
「聞いてどうすんだ…?」
「どうもしないけど…好奇心みたいな…」
いやなところを突いてくる。
どうするか、なんて聞かれても答えはない。
「俺と航の出会いかー…」
「小3の時か…?」
「あーそうそう!初めて同じクラスになったんだよな」
「ああ。…こんなんでいいか?」
いいわけがないだろう、そう言いたい気持ちを抑えて、もう一歩踏み込んだ質問をしてみる。
「航君は小学生の頃から南君と一緒に行動してるの?」
「…そうだな、出会ってすぐに仲良くなって放課はよく二人で遊んだりしてたな」
「先に声掛けてきたのは航だったよね」
南君からではないのか。
そこに驚きが隠せない。
「昔は航もやんちゃだったのに…すっかり大人になったね」
なるほど、その頃の航君は今の南君並に外交的だったのか。
それなら納得がいく。
「ありがとう、なんかすっきりしたよ」
「へ?あ、うん。どういたしまして」
南君がきょとんとしている。
返答に困っているとチャイムが鳴った。
「行かなきゃ!」
入学式が始まってしまうため、急いで体育館に向かった。
-入学式-
校長先生の話を経て、最後に生徒会長から挨拶があった。
『僕は生徒会長の宮本 麗(みやもと れい)です。よろしくね』
長い髪を左耳の上で結った美人で本当に男なのかと疑いたくなる。
『うーん…そうだな…』
新入生の席を見渡した会長は僕を見て動きを止めた。
『中島 広!後で生徒会室に来なさい』
「はいぃぃっ」
名前と顔を全員把握しているのだろうか。
しかし僕は何か悪いことをしただろうか、怒られるのならば僕の横で寝ている航君の方だろう。
まあとにかく行かなくては…
入学早々上級生に目を付けられるのは避けたい。
その後閉会式があり新しい教室に入った。
入学説明会で会ったクラスメイトが前より少し大人に見える。
なんだか緊張してきた。
緊張といえば先ほどの会長の話だ。これから自分は何をされるのだろうか。
「広君!お前すげぇな!」
声を掛けてきたのは南君のように明るい桜田 光(さくらだ ひかる)君だった。
すごい、と言われてもこちらとしてはあまり嬉しくない。
「行かなくていいの?会長は『この後』って言ってたよね」
光君の後ろから現れたのは結木 香(ゆうき かおる)君だ。
「そうだね、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
二人に見送られながら場所を覚えたばかりの生徒会室まで走った。
□生徒会室
「失礼しますっ」
しっかりと一礼してから入ると会長がいた。いつもなら副会長や書記、会計の人たちもいるらしいが、今は入学式の片付けに当たっているという。
「本当に来たんだ…、やっぱり君はいい子だね」
「へ…?」
やっぱりとはどういうことだろうか。
「新入生の子達の写真を見せてもらって何人か候補を挙げていたけど、生で見てみて君が一番純粋そうだったから君を呼んだんだ」
「あの…僕に何をさせる気でしょうか…?」
「何って…知らない?この学校の生徒会の伝統。生徒会長が新入生の中で気に入った子を決めて生徒会の雑用をさせたりするんだよ」
「雑用!?」
怒られると思っていたため内心ホッとしていたが、雑用と聞いてまた不安になってきた。
「簡単だよ?生徒会の活動時間に来て、お茶汲みをしたり、肩を揉んだり、その他色々ってくらいだから」
ニコッとしている会長に更なる不安が募りながらも、折角気に入ってもらえたのだから、と雑用係を請け負ってしまった。
しかし僕はすぐに後悔するはめになる…