※破→二十八歳 屁→二十歳


※未来捏造設定です












毛狩り隊を――帝国を完全に滅ぼしてから、早いもので四年が経つ。ツル・ツルリーナの脅威から解放された国民は各々の力で再び立ち上がり、荒らされた国土を元の姿に戻すために全力を注いだ。その甲斐あって失われた美しさを取り戻すことが出来た昨今、人々は帰ってきた平和を噛み締めながら日々を生きている。






太陽が完全に姿を見せようとしている午前七時。破天荒は欠伸をかみ殺しながら自宅への帰路についていた。この四年間ですっかり伸びた髪を無造作にかき上げ、肩に掛けた薄汚れたタオルで未だ滲む汗を拭いながら「ねみぃ…」と呟く。深夜の工事現場で働き始めてからもうすぐ半年になるが、徹夜からくる眠気と疲労にはまだ体が慣れてくれないらしい。もともと破天荒は夜型の人間ではないので余計に辛いのだ。しかしそれでもこの仕事に従事しているのは給料が良いからだ。それに、この仕事は敬愛する首領パッチに紹介してもらったのだ。私情で音を上げてしまっては首領パッチに迷惑が掛かる。破天荒はそれだけは避けたかった。




それに…こんな短期間で仕事を辞めてしまっては、またヘッポコ丸にどやされてしまう。一緒に暮らし始めてから辞めた仕事の数は、最早両手では足りなくなってしまった。しかも全て短期間で辞めてしまっているのだ。どれも長続きしない。酷い時は三日で辞めた。そしてその理由の大半が、職場の人間とのトラブルなのだ。その度にヘッポコ丸が保護者のように頭を下げに行くのだから破天荒の立場が無い。八つも年が離れている筈なのに、ヘッポコ丸の方がしっかりしているように見えるのは自他共に認める所だ。誰がどう見たってヘッポコ丸の方が世間を上手く渡っている。その証拠に、ヘッポコ丸はこの四年間同じ職場で働いているのだ。破天荒には到底真似出来ない神業である。






そのヘッポコ丸とは、この仕事を始めてから微妙な擦れ違いが続いている。破天荒は今日のように朝帰りであることがほとんどであるから、帰ってシャワーを浴びたら夕方まで寝こけてしまう。ヘッポコ丸はヘッポコ丸で出勤時間が少し早いので、破天荒が帰る時には既に出勤しているか、これから出勤しようとしているかのどちらかの場面にしか遭遇しない。夜も破天荒が出勤する僅かな時間しか一緒に居られないのだ。勿論休みの日はしつこいぐらい一日中イチャイチャして過ごすが、その休みの日も最近ズレ気味だ。まぁ早い話が、破天荒は今猛烈にヘッポコ丸に触れたくて仕方ないのである。






「たで〜ま〜」




ピークに達した眠気と疲労で意識が朦朧とし始めてきた破天荒は投げやりな帰宅文言を呟きながら扉を開けた。既に目が半分閉じている。このまま立った状態で寝かけない状況だ。




「あ、おかえり」





そんな危うい破天荒の意識を引っ張り上げたのは、期待していなかった迎えの言葉。発したのは勿論ヘッポコ丸だ。一緒に暮らし始めてからずっと愛用してるエプロンをつけたヘッポコ丸が、ひょっこりと玄関のすぐ側にあるキッチンから顔を覗かせた。



もう出勤したとばかり思っていた破天荒は、ヘッポコ丸の姿を見てパチパチと目を瞬かせた。





「あ? お前仕事は?」
「今日は休みだよ。言ってなかったっけ?」
「あ〜……さぁ?」





どうやら休みらしい。しかし破天荒にはそれを教えられた記憶が無い。だが、忘れてるだけかもしれないので曖昧に答えるに留めた。



とりあえず玄関に居続けるのもあれだから、と破天荒は自室に入って汗と泥で汚れた仕事着を脱いで適当にシャツを羽織ってリビングに戻った。キッチンではヘッポコ丸が朝食を作っているらしく、卵の焼ける良い匂いがした。





「休みのわりには起きんの早いな」
「だって破天荒、お腹空いてるでしょ?」
「あー俺のためか。そうかそうか」
「その自惚れ方がムカつく」





焼き上がった目玉焼きを皿に移してから、側に置いてあった灰皿に放置していたらしい煙草をくわえるヘッポコ丸。この四年間の中で、ヘッポコ丸はどうやら煙草の味を覚えてしまったらしい。愛煙家、と称する程に吸うわけではない。寝起きの際と寝る前に嗜む程度である。




フゥー、と白い煙を吐き出しながら、ヘッポコ丸は呆れ顔で破天荒を見やる。





「で、仕事は続けられそう?」
「大丈夫じゃね? 俺、これでも頼りにされてんだぞー現場の奴らに」
「破天荒、無駄に力はあるもんね」
「無駄ってなんだよ無駄って」
「天職ってことだよ」





トースターに食パンを二枚放り込んで、タイマーをセットする。煙草をくわえたままサラダを作るヘッポコ丸の背中を、破天荒は冷蔵庫から取り出した牛乳をそのまま口をつけながらぼんやり見つめた。




この四年間で、破天荒の身長には遠く及ばないが、ヘッポコ丸の身長が伸びた。僅かではあるが、二人の距離が縮まったのは確かだ。そして髪も、だいぶ伸びた。肩甲骨辺りまで伸びた銀髪は相変わらず綺麗で、指を通すとサラサラとすり抜けていく。ヘッポコ丸はその髪を軽く結び、いつも肩に引っかけている。それによって露わになる項にいつも破天荒はムラムラするのだが、所構わず発情して暴走するような真似はしなくなった。破天荒も成長したのである。




まぁ、その我慢の分いざ始めたらかなりしつこいのであるが、その話はまた後日改めて。





「やっぱり首領パッチに相談して正解だったよ。さすがは『社長』してるだけあるよな」
「当たり前だ。なんたっておやびんなんだからな!」
「首領パッチの会社、順調なの?」
「おやびんの会社なんだから当然だろ!」





ボーボボの元を離れた後、首領パッチは独自で会社を設立し、今や世界で『ハジケカンパニー』を知らない者は居ない程の大企業に成長した。しかし『ハジケカンパニー』がどういった事業を生業にしているのかはあまり知られていない。というか、色々と手を出し過ぎてどれが本業か確定出来ないというべきか。それで地位が確立しているのだから、さすが、としか言いようがない。





「もうしばらく首領パッチに会ってないな。やっぱ忙しいんだろうな〜」




灰を落としながらヘッポコ丸は言う。実際首領パッチが自ら会社を動かしているのかは不明だが、なんの音沙汰も無いということは多忙なのだろう。以前はよく仕事の合間を縫って二人の元に遊びに来ていたのだが、ここ最近はパッタリと姿を見せなくなっていた。




「俺達と違っておやびんは別世界で生きてるからな。お忙しいに決まってらぁ」
「うん、そうなんだろうね。あ、破天荒、トースト出来たから出してー」
「おーう」





こんがりキツネ色に焼けたトーストを引っ張り出して皿に並べ、リビングに設けた小さなテーブルに置く。その後ろから目玉焼きとサラダを持ったヘッポコ丸が続く。煙草は既に灰皿でその火種を潰えさせていた。破天荒はキッチンに戻って二人分の珈琲を作り、カップを持ってリビングに戻った。





「ありがと」
「いーえー。あーあーねみー。さっさと寝てぇわ」




大欠伸をかましながら破天荒はどっかりと腰を下ろす。そして珈琲を流し込み、トーストにバターを塗りたくる。ヘッポコ丸もそれに倣ってジャムを塗りながら、破天荒に言う。




「眠いなら寝て良いよ? ラップして置いとくから」
「いや、いい。寝るのはこれ食ってからでも遅くねぇから」
「そっか、明日は休みだったね」
「おう。お前は?」
「俺は明日も休み。珍しく人手が足りてるからって、連休くれたんだ」





トーストをかじりながらそう言うヘッポコ丸はどこか嬉しそうだ。大方、休みがかぶったことが嬉しいのだろう。それは破天荒も一緒だった。




「じゃあ、今夜はお楽しみだな」
「…朝っぱらから何言ってんだよ」
「当たり前だろうが。お互いが休みの時なんかここしばらく無かったんだからよ」
「だからって朝からそういうこと言うなっての」




嘆息しながらヘッポコ丸はトーストをもう一口かじり、目玉焼きを崩しにかかった。二人が付き合いだして四年もの歳月が流れ、そのせいかヘッポコ丸から初さが消えてしまっていた。付き合い始めた当初にこんなことを言えば顔を真っ赤にしていたというのに、今は呆れられて軽くあしらわれるのが大半だ。それが破天荒はつまらなく感じていた。あの頃は可愛かったのに…と何度思ったことか。





しかし、可愛さが影に隠れてしまった代わりに、この四年間で培った色気が時々顔を覗かせるようになった。『十六歳』のヘッポコ丸では見られなかった大人の色香を、『二十歳』のヘッポコ丸は時折ちらつかせて破天荒を挑発するのである。





現に、今――





「まぁ…仕方ないから、付き合ってあげる」





黄身が付着した箸をペロリと舐め上げながら、ヘッポコ丸は妖艶な瞳を破天荒に向けた。それは、欲に飢えた雄の目である。四年という歳月の中でヘッポコ丸が身に付けた、誘惑のテクニックだ。破天荒がこれに抗えたことは、未だに無い。





「んな顔してっと、今から襲うぜ?」
「疲れてるんじゃなかったの?」
「お前と運動するぐらいの体力は残ってっさ」
「ふ〜ん? でも、疲れてると起ちにくいって聞いたけど?」
「なら…試してみろよ」





キスを仕掛ける直前、朝飯無駄になっちまうな――とそんなことが破天荒の脳裏を過ぎったが、今更ブレーキなんぞ掛けられる筈もなく、そんな罪悪感はすぐに粉々に砕け散った。柔らかい唇を貪りながら、そういえばキスも最近していなかったことを思い出した。それだけ疲れていたのか、会えなかったのか。勿体無いことしたなぁと考えながら、破天荒はヘッポコ丸の体をギュッと抱き寄せた。





キスの間、互いの手は伸びた髪を弄ぶ。首に手を回したらどちらも指が髪を捉えるので、そのまま質感を楽しむのである。梳いたり、絡ませたり、軽く握ったり。キスに没頭しながら、互いの手も止まらない。舌を絡ませるのと同様の密度を伴わせて、髪に触れる。長く互いの短髪姿に見慣れていたせいで、長髪になって時間が経ったといえど物珍しいのだ。ただ触り心地が良いから、というのもあるらしいが。




熱い吐息が交わり、二人の唇が離れた。銀に光る唾液の糸が二人を繋いでいる。それを絡め取りながら、ヘッポコ丸は不敵に笑う。





「もう終わり?」
「バーカ、んなわけねぇだろ。こっからが本番だ」





覚悟しやがれ、と破天荒も不敵に笑う。髪を結んでいたゴムを解きながら、お手柔らかに、とヘッポコ丸は破天荒の頬を舐めた。破天荒またキスを仕掛けながらヘッポコ丸の服を脱がせていく。キスは、朝食の味の中に微かな煙草の味が混じっていた。























今も昔も君は君



「なんか書きたい…」→「そうだ、四年後破屁書こう」な単純思考で突発的に書き上げたもの。制作所要時間は一時間です。なのでクオリティがものっそ低い。いっ良いんだ良いんだ! 詰め込みたいことは詰め込んだモン!



詰め込みたかったこと↓

●二人共髪伸びてる
●へっくんは結んだ髪を肩に掛けてる
●へっくん喫煙してる
●首領パッチが社長
●誘い上手なへっくん



全部書けたから満足なんだよ。うん、完全俺得(^q^)← でもちょっと大人な顔して破天荒さんを誘惑するへっくんも美味しいと思うんだ!! そんなへっくんどこかに落ちてませんかねハァハァ←







栞葉 朱那

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