華
□桜香
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まだ蕾を堅く閉ざしているが、日を追う毎に少しずつそれは、確かに開き始めていた。
「……早く見たいな…。」
桜の木を見上げたまま、千鶴はそう呟いた。その瞳には、多大な期待とが込められていた。
「…千鶴、あんたは桜が好きなのか。」
そう問いかけると、桜の木から視線を外し、柔らかく微笑んだ。
「はい、大好きです。京に来て、春の訪れが一層楽しみになったんです。そのきっかけをくれたのが、桜でした…。私は、江戸の桜より京の桜の方が好きです。」
千鶴はそう明るく話す。
彼女と話していると、不思議と自然に心根が暖かくなる。冬の氷をゆっくりと雪解け水に変えるような、そんな暖かさに似ている。
「でも、桜は一度咲いて日が経つと、跡形もなくすぐに散ってしまいますよね…。だけど、その儚さも桜が綺麗に見える理由の一つになると、私は思うんです。」
「儚い故の美しさ、か…成る程、そうかもしれんな。」
「はい!
あ、すみません、お引き止めしてしまって…。失礼します。」