二つの心

□二つの心3
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 学園祭当日。
 当日と言っても一日目ではなく二日目だ。
 ユウと話し合って以来、ユウは今までどおりのユウでいきなり精神世界に引きずり込んだと思えば挑発してきて言い争いになったりしている。

(欲深いあいつのあの落ち着き方は異常だったな)

 俺はユウの雰囲気を思い出す。
 落ち着いた様子だったからこそ本気だという事は分かった。
 俺自身は恋愛云々が分からない。
 忘れろとは言われたけど忘れられるようなものじゃない。

(どうすればいいんだ?)

「隼斗、当番交代だってさ」

 翔がそう俺に声をかけてきた。
 後ろには明先生もいる。

「櫻井くんと五百重くんのおかげでかなりお客様が入ったね、ありがとう」
「来年は先生の担当生徒にならないように願っておきます」
「翔……」
「そう言ってるとまたなるから楽しみだね」

 堂々と拒否する翔を俺は何も見なかったことにする。
 こき使われたのは事実だけどな。
 それよりも。
 ユウの事で翔にはまだ話していないからそのうち話さないといけない。

「隼斗、梓と白が入り口で待ってるから急ごう」
「あぁ、ちょっと待ってくれ……よし行こう」

 梓たちと合流して出店をどんどん回っていく。

「隼斗、あれ買って!」
「自分で買え」
「一個!一個で良いから!」
「小さい子どもか、お前は!」

 躊躇いもなく俺にねだるな。
 自分で買え

 そう思っていても最終的に拗ねられては困る。
 仕方ないが大人しく代金を払う。

「いただきま〜す」
「い、いただきます」
「隼斗いいのか?」
「あとでコーヒーを要求する」
「はいはい」

 結局全員分買って簡単な昼食を済ませてからまた歩き出す。
 三年の方から見始めて俺たちの隣にあるクラスまでは見回っていた。

「翔にぃ、これ勝負しよう!」
「輪投げ……」
「敗者は勝者にドリンク奢る罰ゲーム付きで!」
「別に構わないけど。隼斗と白はどうする?」
「俺はパス。ドリンクなら今持ってるコーヒーがある」
「俺も遠慮しておきます。輪投げ苦手なんだ」

 俺と白がそう言うと二人は了解と言って勝負をし始めた。
 こいつら顔が真剣過ぎるんだけど。
 輪投げだぞ、ただの。
 少し顔を引き攣らせて眺める。

「隼斗、ちょっと相談したい事がまた出来て……」

 横にいる白からそう言われて見ると真剣な表情で俺を見ていた。
 頭の中でユウが思い出される。

(何でユウの事が……)

 あの話し合いの時は結局白と何を話したのかちゃんと聞いてなかった。
 白から話を聞けるかもしれない。

「ああ、俺でよければ相談にのるよ。今日の帰りに聞こうか」
「あ、近くに空き教室あるからそこで聞いてほしいかな……って」
「じゃあ二人が勝負してる間に行ってくるか」
「ありがとう、隼斗」

 白と並びながら空き教室に向かう。
 そして中に入って適当な椅子に座った。

「で、俺たちと一緒に移動してたんだから結局言えなかったのか」
「言おうとしたらタイミング逃しちゃったんだ」
「あぁ……それは……」

 よく聞くパターンだな。
 邪魔が入ったとかそういったパターン。
 
「で、新しい相談って?どうしたんだ?」
「相談というか……言いたい事があって」
「言いたい事?」
「その……」

 少し考えた素振りを見せた白は何かを決意したように俺を見た。

「俺、実は隼斗の事ずっと好きだったんだ!」
「……え?」
「ごめんなさい、こんなこと言って。気持ち悪いよね、やっぱり」
「いや、唐突過ぎて理解が追いついていないだけだから大丈夫だぞ。というかどういう事だ?」

 俺は首を傾げた。
 白は少し顔を赤くしている。

「どういう事と言われても……隼斗、俺の事すごい気にかけてくれてるでしょ?それが嬉しくて……人見知りの激しい俺に対して少しずつ慣れていけば良いって最初の頃言ってくれたのが嬉しかったんだ。それで気が付いたら……」

 確かにそんな事言ったな。
 今以上に白は人見知りが激しかったから俺が励ますように言った記憶がある。

「あ、返事は一週間後にもう一回聞きに行く、から……」
「今じゃなくていいのか」
「やっぱり怖いから……落ち着いてから聞きたい」
「……わかった」
「ありがとう、隼斗」
「……」

(こんな事になるなんて普通はあり得ないだろ)

 頭が混乱してくる。
 そういえばユウが反応していない。

(ユウ……?)

 ユウは反応しない。
 頼りになる幼馴染へ相談することに決める。
 俺は白と何事もなかったようにその教室から離れて翔たちと合流した。




 学園祭が終わった放課後。
 翔に少し話したい事があるからと言って教室に残ってもらった俺は大人しく翔に今の状況を話した。

「うわぁ……白まで?」
「ああ」
「お前はどうなんだよ、隼斗。二人の事をどう思ってる?」

 どうって……

「ユウはもう一人の俺だし白は可愛い後輩だ」
「そういう事を言ってるんじゃなくて……」

 翔が呆れたように俺を見る。
 何か間違ったこと言ったか?

「二人に告白された時どう思った?」
「頭が真っ白になった」
「ですよね」

 俺は男だぞ、当然だ。
 しかもユウは俺のもう一つの人格だ。

「でも」
「ん?」
「白に告白されたあと、ユウの事を思い出した」

 その時の事を思い出す。

「……」
「前は俺と強制交代するくらいだったのに何も言わなかったしそれから話しかけても反応しない。それが」
「寂しい?」

 寂しい……?
 翔は肩を竦めながら笑った。

「隼斗、お前多分そういう経験無いから理解できてないだけだと思う。元々欲が無いだろ、お前。寂しいって事はその寂しい場所をそのなくなった物で埋めたいんだよ。欲しいんだよ。お前自身がそれを欲しがってる。つまりお前は」

 白の事は後輩として好き。
 ユウの事は恋愛対象として好き。

「って事だろ。」
「……」

 いまいち理解できない。

「理解してないな、お前。じゃあ質問。これ聞くのはお前の傷抉るのと同じだから聞きたくなかったけど。ユウに襲われた時、どう思った?」
「っ……」

 あの時。
 無理やり躰を開かされた。
 嫌だった。

 力づくで抑えられていることが

 怖かった

 俺の声がきこえていないことが

 でも………

「隼斗、ユウにちゃんと言った方が良いぞ」
「ああ。ありがとう、翔」

 家に戻ってもう一度話し合おう。

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