のべる。

□いつもありがとう!
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「誕生日おめでとう!」

ぱーんっ、たくさんのクラッカーが陽気に鳴った。クラッカーを向けられた本人はいまだ状況を理解出来ていないらしく、ぱちくりと瞳を瞬かせている。それが愛らしくて、燐の頬はだらしなくゆるんだ。

「勝呂、誕生日おめでとう!」

ゆるんだ笑顔のまま、燐がもう一度言った。そうしてようやく理解したのか、勝呂は照れくさそうに笑った。

「…おおきに。皆知ってたんか」
「志摩くんと三輪くんに教えてもらったの!」

しえみがにっこりと笑って、持っている向日葵を勝呂に手渡した。大輪の、金色の花が眩しくて勝呂は目を細めた。

「私からは、この向日葵!私が育てた向日葵なの」
「杜山さんが?…ちゃんと育てると、こんな綺麗に咲くんやなぁ」
「向日葵って、勝呂君みたいでしょ?だから、どうしてもあげたかったの」

にこにこと笑うしえみの言葉に、勝呂は驚いたように目を見開いた。向日葵。太陽のようなこの花と自分が、どうして重なるのだろう。向日葵の花束を見つめながら考えるも、わからなくて小さく首を傾げた。しえみは、楽しそうに笑う。

「背が高くてね、いつも私たちを見守ってくれているから!」
「結果的に見てらんなくて手ぇ出して来るけどな」

しえみの言葉に、燐がからかうように言葉を重ねる。言わずもがな、一番勝呂が見ていられない人物である。その燐に、皆の一番後ろにいた雪男が苦笑を浮かべる。

「それがわかっているんだったら、少しでも勝呂くんの負担を減らしてあげられるように頑張ってね」
「えー。俺勝呂に色々教えてもらうの好きなんだけどなぁ」

そう言われると、悪い気もしなくて。勝呂は困ったように笑った。その勝呂の視界に、見慣れたピンクが映る。

「志摩」
「ね、立ってないで中行きましょ。奥村君がご馳走作ってくれはったんです」
「奥村が?」
「勝呂に何あげればいいのかわかんなかったし、料理なら失敗もないかなって」

料理がプレゼントじゃだめ?
困ったように後頭部をかく燐を見て、奥のテーブルに乗る料理を見る。確かに豪勢で、手間がかかるようなものばかり。勝呂は手を伸ばして、燐の頭を撫でた。

「充分や、ありがとな」
「…へへ、こちらこそいつもありがとな!」

志摩に手を引かれ、燐に背を押されて勝呂は教室の真ん中の席に腰掛ける。目の前には、下手な似顔絵の描かれたケーキ。これも燐が焼いたのだろう。勝呂は照れくさそうに目を伏せた。
瞬間、ずいっと目の前に綺麗に包装された箱が差し出された。慌てて顔を上げると、にっこりと笑った朴と恥ずかしそうに頬を染め、目線をずらした出雲がいる。

「これね、私と出雲ちゃんで選んだカチューシャなの。よかったらもらって?」
「か、勘違いしないでよ!朴が一緒にプレゼントしようなんて言わなきゃ、アンタにプレゼントなんかあげないんだから!朴に感謝しなさいよ!」

出雲がまくしたてるように話すのは照れ隠しの為だと朴に教えてもらったのは、いつのことだろうか。ぼんやりと勝呂は考えるが、考えても思い出せない。まぁ仕方がないだろうと己の思考に区切りを入れた勝呂は、プレゼントを受け取って柔らかく微笑んだ。

「おん。おおきに、朴さん、神木」

瞬間、出雲の顔が真っ赤に染まったが、勝呂はそれに気付かなかった。赤い包装紙に、金のリボンのプレゼントを嬉しそうに見つめていたのだから。

「坊、僕と志摩さんからはこれです」
「毎年同じで芸がないとか言わんといてくださいねー」

うっすらと青を宿した球が連なる数珠。それが二人からの贈り物である。互いに数珠を贈り合うようになったのはいつからだろうか。互いを守ってくれるよう、祈りを込めて互いに贈り合うのだ。その祈りが通じたのかどうかは知らないが、彼らが健在なのは確かである。

「何言うてんのや。俺だって毎年数珠やろ」
「さいでしたねぇ」

志摩の手首で、先月贈ったばかりの赤みがかった数珠が揺れる。それを見て、勝呂の目が嬉しそうに細められた。

「僕からは経典です。この前、欲しいと言っていたから」
「覚えててくれはったんですか?ありがとうございます」

燐からしてみれば、ミミズがのたくったようにしか見えない字ばかりの経典をもらって何が嬉しいのかわからないが。それでも、勝呂が嬉しそうに笑っていれば自分も嬉しいのだ。それに、その内容を教えてくれと彼の教えを請う口実が出来たと考えれば自分も嬉しくて当然と言えよう。燐の尾が、上機嫌に床を叩いた。

『いつもおまえらの喧嘩で楽しませてもらってるからな。特別に俺様からもプレゼントだ。ありがたあく受けとんな!』
「…お、おおきに…」

宝の右手の腹話術人形から、腹話術人形を受け取る。正直、使うときは来ないだろう。しかし、宝の言うとおりありがたあく頂戴しておくことにした。厚意を無駄にすることは勝呂にとって有り得ないことだ。

「あ〜ん?にゃんだよおまえら。色気もへったくれもねぇプレゼントだな、おい」
「きっ…!ききき霧隠先生!せなっ、背中!!」
「にゃはは、ウブだな〜、勝呂」

一人黙って酒を浴びるように呑んでいた(祝う気があるのかと雪男に叱られていたのを塾生達は見ている)シュラが、後ろから勝呂に抱き付いた。柔らかい胸が背中に当たり、勝呂は顔を真っ赤に染める。シュラはけらけらと笑って更に身体を密着させた。慌てる姿を面白そうに見つめてから、シュラは勝呂の目の前でプレゼントの入ったビニールをがさりと揺らす。

「あたしが許す。呑め」
「貴女が一番色気がないですこの酔っ払いが」

雪男の呆れたような突っ込みに、勝呂を含めた塾生たちも苦笑する。それから、勝呂は渡されたプレゼントを眺めてやわらかく微笑んだ。流石にビールを味わうわけにはいかないけれど。それでも、プレゼントはプレゼントだ。嬉しいことには変わりない。
昨年までの、身内だけの誕生会とは違う。気の置けない友人と、尊敬出来る(たまに出来ないけれど)先生。これは中々、幸せなことではないか。勝呂は笑う。心から、幸せそうに。

「勝呂、」

燐も、幸せそうに笑って勝呂を呼んだ。勝呂が彼を振り返る。

「いつもありがとう!」

これからもお願いします、大切な貴方!






 

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