夢小説
□視線
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私は何時も貴方を見ているのに。
貴方は私を見ていない。
その視線は何時になったら私に向くの?
【視線】
キーンコーンカーンコーンと昼休みを告げるチャイムが鳴る。私は急いで弁当を持ち屋上へと走って行った。
ガチャッと勢いよくドアを引くとそいつはニヤッとした笑みを向けて私を見上げた。
「今日も俺の勝ちだねィ」
「ちょっと待つヨロシ!教室を出たのは絶対私の方が早かったネ。なのに何で、サドの方が先に着いてるアル!」
その表情にイライラ感を覚え、隠す事なく顔に出してやった。
すると、沖田は苦笑混じりに笑った。
そして……
「さァ、俺の方が足が長いからじゃねーですかィ?」
と、言いやがった。
私は沸々と沸き上がってきた怒りを抑えて沖田の隣にドカッと腰を降ろす。そして、弁当を拡げながら相手をキッと睨んでやった。
沖田はなにくわぬ顔で焼きそばパンにかぶり付き、時たま喉に詰まらせながら水をガブガブ飲んでいる。
その仕草に何故だかさっきまでとは違う優しい感情が溢れ出てきて、私の表情は緩くなり笑みが溢れた。
いつの間にか沖田も私を見ていて微笑んでいる。私はボッと顔を赤く染め相手とは反対方向を向いて弁当を食べ始めるも、楽しみにしていたタコさんウィンナーを沖田に食べられ相手に掴み掛かった。
だけど、私は笑っていた。
私は貴方が「好きです」と心に思いながら。
ある日の放課後、私は教室の前のドアで立ち止まった。
「お妙さん、聞いた?沖田くんのこと」
「えぇ、アレでしょ……?」
「そう、沖田くんって好きな女の子を見る為に何時も屋上に行ってるってウワサ、ホントみたいね。サドの癖に健気ね」
教室の中から聞こえてきたのは、さっちゃんと姉御の声。
沖田が何だって?何を言ってるのこの二人は?
「このこと神楽ちゃんには内緒よ。猿飛さん」
「言われなくても分かっているわよ」
此処まで二人の会話を聞いて、私は霧中でその場から逃げ出した。
沖田の気持ちに気付かなかった私から。二人ともの優しい気遣いから。
そして、惨めな私の気持ちから。
走っている内にいつの間にか屋上に着いていた。私は恐る恐るドアを引く。そこにはやっぱり沖田がいて、屋上の下のグランドを見つめていた。私はそっと沖田に近付いて屋上の下の相手に目を向ける。
笑顔が似合う、真面目そうで可愛らしい女の子がテキパキとサッカー部の後片付けをしていた。恐らく、マネージャ
ーなのだろう。
そこで沖田は私に気付いたのか、ギョッとした目を向けて私を見た。
「何で此処にいるんでィ、もうとっくに帰ってる時間だ……」
「そう言うお前こそ部活に行かなくていいのかヨ?銀ちゃん、きっと今頃泣いてるネ」
敢えて沖田の言葉を遮って問い返す。
今にも溢れ出てきそうな涙を堪えながら。
「あ、イヤ、俺は……」
沖田の視線が定まる事なくキョロキョロと動き、とても挙動不審だ。
「部活に行かないのは、彼女を見てるからなのカ?」
私は震える声でそう言葉を発した。
少しの沈黙が流れた後、観念したのか「はぁ」と言う溜め息とともに沖田がコクンと頷いた。
「俺の一目惚れでさァ。何でも一生懸命な所が可愛く見えちまったんでィ」
苦笑混じりに沖田は笑う。だけどその表情はかつて私に見せた事はないくらいの優しい顔つきだった。
その時、はっきり分かってしまった。私じゃダメなんだと。
そして沖田は続ける。
「でも、どうすればいいか分からねーんでさァ」
其処まで平静を保っていた私も声をあらげた。
「バカアルカ?好きなら自分の気持ち伝えて来いヨ!男なら当たって来いヨ!それでもダメならまた、当たって来いヨ!」
はぁはぁと荒い息を調えながら言い切った私に呆然と聞いていた沖田は途端にガバッと立ち上がり、フッとした笑みを向けた。
「サンキュー、チャイナ。行ってきやす」
「おぅ、今度酢昆布奢れヨ?行ってらっしゃいアル」
笑顔で相手を見送り、見えなくなった背中にボソリと呟いた。
「バカは私ヨ……。行かないで、沖田が大好きアル……」
そしてそのまま泣き崩れた。声を押し殺して次から次へと涙が溢れてくる。
こんな時にも空の色は私の心とは反対にキレイな夕日をうつし出していた。
日が暮れるまで、まだまだ時間がかかりそうだった。
貴方の視線を私に下さい。
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