虎徹さんの服はボタンが多い。
僕のはTシャツを被って、赤のライダースのチャックをあげればいいだけだし
とても簡単なのに比べ、年の割には気を使ってお洒落な彼は
濃いグリーンのワイシャツにも、
ベージュのベストにもボタンがついていて、着るのにも時間がかかる。

今日朝早くから取材の仕事が入っていたのにも関わらず、
昨日の夜無理をさせてしまったせいか、
彼の意識はまだ半分以上眠りの世界に浸っているようだ。
ほとんど目を閉じて、やっとの思いでベッドから上半身を起こしている彼の両腕に、
素早くシャツの袖を通して、一番下のボタンから止めていく。
小さなボタンを一つ二つ止めながら、バーナビーは虎徹に呼び掛ける。

「虎徹さん、起きてください。
遅刻してしまいますよ」

んー、と唸りながら、うっすら目をあけて手の甲で瞼をこしこしと擦る。
その子供みたいな仕草が可愛いくって、思わず手を止めた。
この人無防備すぎる。

あと二つで上まで止まりきるボタンは、
よくみれば穴が3つあって、段違いになっていたことに気づく。
ああ、もう。貴方に気をとられ過ぎてかけ間違えてしまったじゃないですか。

僕がまた上からボタンを外していると、
虎徹さんの意識がだんだん覚醒してきたらしい。

「ばにー...お、はよぉ」

元々垂れ気味の目をさらに下げてふにゃりと微笑んだ。
寝惚けてるせいか、無駄に柔らかな雰囲気だ。
僕は、固まってしまう。
あまりに破壊力満載の笑みに、
僕の「時間を守る」という大人として当然のマナーが、吹き飛んでしまった。
さすが正義の壊し屋。

なんか、もういいですよね。


「今日、遅刻しません?」

「え!?」


ちょうどボタンもはずし終えたし、
そのまま、虎徹さんの上半身を押してベッドに沈ませた。


頭にはてなを浮かべている恋人を見ながら、
さっきは煩わしく思ったボタンも
かけ違えて良かった、と僕はにっこり微笑んだ。


















別バー



朝起きてシャツを着ようとしたら、
バニーが僕がしますからと聞かなかった。
バニーは昨日、雑誌の撮影が夜遅くまでかかって、凄く眠たそうだ。
ほら、現に今もあくびした。

自分でできるし良いって、と言ったが、
恋人のボタンもとめられないなんてヒーロー失格だとかなんとか
ワケわかんない事言い出したから、
もう好きにやらせることにした。

下から順々にボタンをとめていくバニーは、何やら偉いシャツに近い。

「あ、お前メガネないしみえねぇの?」
「…近づけば見えます。」

「やっぱ自分でする!寝ろよ」
「うるさいな、僕がするといったらするんです!」

虎徹はふうと嘆息した。
まったく。
普段はそんなことないのに、時々こうやって駄々っ子みたいに意固地になるとこは
子供みてぇだ、と思ってしまう。
でもこれは俺に甘えてんだよな。
今まで誰にも上手く甘えられなかったお前が、
不器用に小さな自分を押し付けてさ。

こんな風に取るに足りないことだと思えるような
何気ないささやかな日常を、
バニーは大事にしてるんだ。

お前は気づいてんだろう?
大切な人の毎日の小さな習慣に
自分が加わることができること、
そしてくだらない事を気兼ねなく言える
そんな当たり前の事が、
一番幸せだって。




お前が小さい頃無くしたものなんだろ?

俺だってそうだ。









上までボタンをとめたバニーはよし、と満足そうな顔を見せた。

なんかその顔がやけに幼く可愛く見えて、愛しくなった。
俺はありがとうのキスをバニーのおでこに送る。




これからは、ボタンをとめるように心も繋いでいこうな。
そして失ったものを埋めていこう。
二人で、ずっと。

















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