バーナビーはチューブから白いペーストを押し出し、ブラシの上半分にのせた。


「口開けてください」



口腔内を見られるというのは、なんだか落ち着かない。
あまり人の目にさらされない内部をのぞかれている感覚が 無駄に恥ずかしさを煽る。
しかもこの年になって、俺が楓にしてやるとかならともかく
自分がされてるなんて。

目の前の男はそんな俺の心情なんかお構いなしに、歯をひとつひとつ
優しくブラッシングしてくれる。
しゃこしゃこと口の中を反響する音は
自分でする時よりも
柔らかくよそよそしい音になって
恥ずかしがってるみたいに聞こえた。


虎徹の顎に手を添えて、
バーナビーは口内がしっかり見えるよう角度を調節する。


なんでこの人相手だと、
何もかもいらしくみえてしまうのか。
持ち手がグリーンのこの歯ブラシを口の中に突き立てた瞬間から、
あらぬ想像ばかりしてしまう。
ブラシを歯に当てて動かすたびに、
つけておいた研磨剤が白く泡立っていく。
それが口の中に広がって、舌の赤と泡の白のコントラストが、
昨日の夜の彼などを思い起こさせて、ドキドキする。

バーナビーはそんな頭の中を振りきるように、虎徹に話しかけた。


「虎徹さんは歯並びも綺麗ですね。
犬歯が鋭く尖ってる、本物の虎みたいです。
あ、親知らずはえかけてる」


「ひょんなほこあひぇひんあ!」

克明に自分の口のなかをレポートしてくるバーナビーに
堪らなくなって虎徹は叫んだ。

「いま、なんて?」
つい、吹き出し笑ってしまったバーナビーの顔を見て、
笑われたけどこいつ楽しそうだしいいかな、などと
思ってしまう自分は相当甘いな。



でも口の中は辛えよ。
バニーお前歯みがき粉つけすぎ。













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