「虎徹さん、本日も健康で何よりです」

バーナビーはまず俺の爪を見て、身体の状態を確認する。
爪の裏には無数の毛細血管が走り、大まかではあるが
一種の健康のバロメーターになるのだそうだ。
健康であれば、それは薄くピンクで色づき表面が滑らかである。
バーナビーはソファに腰かける虎徹の足元に跪き、
片膝をあげて恭しく左手を手に取った。

白くほっそりとした指が、
少し浅黒い虎徹の指を撫で持ち上げる。
まるで儀式の様に爪の上にキスを落とされる。

人間の神経が沢山集まっていおり、様
々な感覚を感じ分けるように作られている
敏感な指先はその柔らかな唇をぬくもりをありありと感じる。
ん…と、ほんの少し虎徹は肩を揺らせた。



パチン、パチン、



なだらかなカーブを描く刃が合わさり
小気味のいい音が響かせながら、
白いケラチンを切り落としていく。

バーナビーは、人差し指の爪を切り終え、そっと細かい目のやすりで切り口を削った。

そのスマートで無駄のない動きは、
毎回虎徹を感心させた。

同じように片手五回ずつ繰り返される行為をバーナビーはさも楽しそうに施してくれる。






こんな指の先まで、
自分が形作っていると思うだけで、バーナビーは得も言われぬ幸福感に包まれた。

この爪に、指先の感覚に、
忘れたくても忘れられないような自分を、克明に刻み付けたい。
爪を見る度、自分のことを思い出して、
僕がふれているこの感触を思い出して、体を熱くさせてほしい。



切り終え、美しく整った10本を眺めて、
バニー、ありがとなと虎徹は言った。




この指先を見る度に、お前を思い出すから
はやくのびないかなぁ、なんて
切ったそばから考える自分に虎徹は、少し笑ってしまった。












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