お待たせいたしました、とテーブルに置かれた
まるで魔法のランプみたいな形の、
ステンレススティールのスープポットは、
自分の顔が映るくらいぴかぴかに磨き上げられている。
持ち手には、曲線を描く繊細で精巧なデザインが施されており、
その重量感は まるで本物の銀で造られているようだ。


中に上品に盛られたルウは、濃い茶色で
上に白い生クリームの駆け抜けた痕跡が
おしゃれに走っていた。





しかし、目の前の男はそんなものなかったかのように、
大きなスプーンでルゥをグルグル混ぜて、
真っ白いご飯が盛られた皿に
どばりと大胆にかけた。

ぐちゃり、
そんな今から口にいれるものには到底しないような音をたてて
銀色のスプーンは白いご飯と茶色いルゥを攪拌していく。
瞬く間にブラウンに侵され、失われる白は、
その儚さゆえに、いつも以上に輝いて見える。










ぐちゃぐちゃになっていくカレーを見ながら
僕はふと昨晩の事を思い出す。

僕の下半身には、まだ、その余韻が重くだるくのしかかっている。
彼は受け入れる側なのだから、尚更そうだろう。
会えなかったわけではなかったのだが
タイミングが悪く
なかなか抱き合えなかった僕たちは
昨日の夜やっと互いの体温を近くで感じて、
そこからはもう止まらなくて
いつも以上に大胆に刺激的に求めあったのだ。

そのときの彼の乱れっぷりといったら
今思い出すだけでも、心と脳が発火しそうだ。


久しぶりにみる彼の痴態は
背徳的なまでにエロティックで、貪欲で、
それでいて初めての様に恥じらう仕草も併せ持っていて。

まるでそのカレーみたいにぐちゃぐちゃな彼の姿は
たまらなく僕を興奮させた。

今大きなスプーンでたっぷり掬い上げ、
次々と欲しがるように開かれた大きな口の中に
飲み込まれる食物みたいに、
僕たちは本能のまま、互いを貪りつくしたのだ。









事細かに昨日の記憶をなぞってしまう自分を戒めるように、
僕は冷たい水を飲んだ。

彼との行為は尾を引く。
とても長く。








「バニー、くわねぇの?」

「い、いえ、食べます」

「ここのカレーうまいな、結構辛いけど」
「そ、そうですか。」


僕は慌てて、ライスの上に少しだけルーをかけて、スプーンで掬った。





「あー辛い!一気に食べたからあちいな...」

そう言って、虎徹さんは、
きっちりきていたシャツのボタンを2つ開けて、
ネクタイを緩めた。
そんな彼を、目の端で見て、
ドキドキしながら、
スプーンですくったカレーライスを口にいれる。



さらけだされた滑らかな首筋から
鬱血の赤がチラリと見えて、
それに気づいた僕は、
味わう余裕もないまま焦って飲み込んでしまった。




やばい、無防備な肌を見たら
ますますどうしようもなくなった。
慌てて目をそらして
もう一度冷えた水を飲もうとするが、
コップには水滴しか残っていない。






カラン、と皿とスプーンが合わさる音がして、
あ、虎徹さん食べ終わっちゃったのかな、と思ったら
バニー、と名前を呼ばれた。




はい、と返事だけして僕はコップを凝視し続ける。





「今から俺の部屋こいよ」



僕はびっくりして、弾かれた様に虎徹さんの方を向いた、
だってご飯の後は、
二人で買い物にいく事にしていたからだ。


「え、」

「お前今自分がどんな顔してるか知ってる?」









虎徹さんはじっと僕を見つめた。
僕はメガネのレンズ越しに、そっと彼の瞳を見返す努力をするが
胸が異常に高鳴って難しい。








「スゲー物欲しそうな顔……なぁ、」


虎徹さんの腕がまっすぐ伸ばされて、
手のひらが、僕の手のひらに重なった。








「…俺も同じこと考えてる、だからこいよ」





少しかすれた声は、僕の理性をぐちゃぐちゃにしていく。
さっき目にした、カレーの様に。
混ざっていく様子が僕の頭の中で
何度も何度も繰り返される。




重なった彼の手があまりに熱くて、
それは辛いカレーのせいなのか、
それともこれから到来するであろうことへの期待からなのか、
僕にはもうわからなかった。



























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