僕が弱音を吐いたから
あなたはキスをねだる。



**






その目。

いつもよりもとろりと溶けて
まあるく飴みたいに甘そうなその瞳の中に、

誰も知らない、
僕しか知らない
可愛いお願いをあなたは映している。


虎徹さんがこの目をするときは、
僕にキスをねだるときだ。








水分をたっぷり含んで
じっとりと湿った視線を
ゆっくりと
でも確実に
僕の口元に放つ貴方は
普段より
一層魅力的になる

ゆっくりと近付いて
覗き込むように視線を合わせたら、
ゆっくりと目が細められて
そのまま瞼が落とされた。



ふわふわの羽根が触れたように柔らかく、浅く、
唇を唇で触り、
感触を確かめる。

温度や表面の滑らかさや
近付かないとわからない
彼のかすかな香水の匂いが
いつもと変わらない
僕の恋人だと教えてくれる。


僕も目をつむって
弾力のあるあたたかな場所に
更に近づき進んで
静かに口づけた。




僕はキスをするといつも
虎徹さんの体を抱き締めるようにしている。

合わさった所から
愛しさが一気に溢れて
いつも溺れてしまいそうになるからだ。

唇の温度が僕の心に移って
小さくくすぶり出す。
うっすら開いた
唇の間から
赤い舌先を差し入れようとしたら
スッと顔が離れていった。



ああ、口惜しい。
今日はこれ以上はお預けらしい。








寂しいなぁと少しまつげを伏せたら、

「続きは夜に」

と小さく囁かれた。








今日僕が弱音をはいて

しなきゃいけないことがたくさんあって
辛くてしたくなくて
少しでもそう思ってしまったら
体もなんだかだるくなってきたような気がして
今日だけ休んでもいいかなぁ
なんてぽつりと
呟いたのを
貴方は知ってたんですね。

だから
そんな素敵な夜の約束を
僕にくれたんだ。

ロボットみたいに沢山の感情を
押し込めて生きるのを止めた僕は
弱音だって吐くんだ。

人間らしい、こんなダメなどうしようもない部分さえ、
貴方はこうやって受け入れてくれる、

この幸せに気づいて


僕は貴方のためならなんだってする。












僕が全部、してあげる。





これからもずっと。



























end

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ