深い呼吸を繰り返し、
その都度汗ばんだ背中が上下する。
上質の糸を、職人の手で丁寧に編み上げ、
ふんだんに手間とお金がかけられているシーツは今、
腹這いに横たわる恋人によって乱れに乱れている。


バーナビーは、情事を終え少し呆けぎみの虎徹の襟足あたりにキスを落とす。
「何か飲みますか?」

二人しか聞こえない、距離でボリュームで、
紡がれる言葉はまだ、愛し合った後の余韻で
湿度とセクシーさをたっぷりと含んでいる。

「...水...ちょうだい」


さっきまで上ずった声を止めどなくあげていた虎徹の喉は
バーナビーの激しい愛情の傷痕が刻まれて掠れていた。





バーナビーはベッドから降りて
冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターの瓶を開けて
コップに注いだ。

冷たい透明の液体はとぷとぷと音を立てて
ガラスの容器を満たしていく。
間接照明の光が、水とグラスに屈折して
きらきらと反射した。

それがまるで星のようで
昨日見た、夜空を思い出す。


虎徹さんが隣にいて、ほらバニー見てみろよ
今日は星がよく見えるな、綺麗だなぁ。

目を輝かせていう恋人の事が
あまりに大切だ、と思って
外ではあまりベタベタしないようにしてるけど
そっと肩を抱き寄せてしまった。








未だに横たわる恋人の横に腰かけて
バーナビーは名前を呼ぶ。
「虎徹さん、はい水ですよ」

「あ、ありがと…」
起き上がろうとしたら腰を痛そうにかばったのを見て
バーナビーは虎徹の体を支えた。
ごろんとうつ伏せの姿勢から、仰向けにさせて、
自分の身体にもたれ掛からせるように虎徹の体を後ろから抱き込む。

「飲ませてあげます」
そう言ってグラスを
虎徹の唇に持っていく。



ひんやりとした薄いガラスを伝って口内に流れ込んでくる冷たい水が、
虎徹の乾いた喉を潤していく。
おいしい。
細胞が足りない水分を取り込んで、体が喜んでいるのが分かる。
背中に触れているバニーの胸板の体温感じながら、
喉を上下させた。





バーナビーは、虎徹が水を飲む様をじっと見つめる。

飲み切れなかった分の水が虎徹の口端から滑り落ちた。
水滴が輝いて、まるで流れ星みたいだと思った。

きらきらと夜空に瞬く星をたくさん含んだ、色を持たない液体が
虎徹の体に取り入れられていく。
星を飲んだあなたの体の中は、
きっと宇宙の様なのだろう。





バーナビーは中身が半分くらい無くなったグラスをサイドテーブルに置いて
親指で虎徹の口元をぬぐってやった。

「虎徹さん、」
「ん?」
「今日も星きれいですかね?」
少し上を向いて斜め後ろを向いた虎徹はバーナビーと視線を絡ませた。
「日中晴れてたし、綺麗だろ、たぶん」

「確認しに行きませんか?」
「そーだなぁ、行くか。今日はもっと近くで見たい。
双眼鏡もってる?」
「オペラグラスしかありませんが、いいですか?」
「じゅーぶん!なんかわくわくしてきた!」



顔をくしゃりと崩して笑った虎徹につられて、
バーナビーも口元をゆるめた。
夜空を見上げ、星を見て、宇宙を感じることを
心底楽しみにしている様な虎徹の表情。



バーナビーはその恒星のような瞳に、心奪われる。

そうだった、あなたは
僕の、






僕だけの宇宙でしたね。
















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