コンセントを入れ、切から入の部分にカチリとスイッチをスライドさせる。
ごおおん、とこもった音を鳴らして温風を吐き出したドライヤーを片手に
艶やかに濡れた彼の髪に触れた。


そっと優しく風をあてると、漆黒の湿原から、ふわりとシャンプーが香った。



まだ彼と付き合う前、
美容室で勧められるがまま買ってみたシャンプーを使った初日に、
バニーの髪すげー良い匂い、と言われて、
それ以来愛用している、この爽やかでほのかに甘い香り。

今じゃ、彼の髪も同じ匂いになった。
濡れた髪の毛を優しくかき混ぜながら、
夢みたいだ、とバーナビーは思う。


こんな細部まで、彼が僕のものになるなんて。
こんなに近くで感じられ、
心を通わせることができるなんて。




髪の毛を指で優しく漉きながら、根元の方を重点的に乾かしていく。
ぱらぱらとすでに乾いた前髪が虎徹のおでこに降りていった。

横側の髪も、形のよい耳の上に流れていって、
僕しか知らない、彼の密かな性感帯は、しなやかな黒に隠される。


「熱くないですか?」
「んーん平気。きもちい」



少し長めの髪が風をうけて宙を舞う。
その滑らかさははまるで、
鍵盤におかれた腕の良いピアノ奏者の指のようだ。



仕上げに毛先をなぞるように風をあててドライヤーのスイッチを切った。

乾いているか確かめるように、髪の毛の中に手を差し入れ掴む。
余分な水分を取り払った髪の毛は、つるつるでさらさらしていた。
凄くさわり心地が良い。
ずっとさわっていたい。



そっと毛先に口付ける。
貴方はこんな細く小さな所からでも僕を魅了してやまない。




「バニーちゃん、するならこっち」


ふとかけられた声に、恋人のほうを向く。




自分の唇を指差しながら、いたずらっ子みたいに微笑んだ虎徹に、
堪らなくなったバーナビーが、
ドライヤーの熱風よりも熱い熱いキスをするまであと三秒。














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