Main

□そんな君に白旗を上げる 前
1ページ/3ページ




最近よく不安定になるな、とバーナビーは感じていた。
心のバランスがうまく取れなくてぐらぐらする。
たぶんオジサンに触れてないからだ。
もうずいぶん、体も合わせていない。
キスも、ほとんどしていない。すると歯止めが利かなくなるからだ。
明らかに、足りていないのだ。
今まで毎日のように味わっていた恋人の感触を
失うとはこんなにつらく、心をすり減らすようなものだったのだろうか。
バーナビーはつくづく実感していた。

時々安らかな虎徹の寝顔を眺めていると、
真っ黒な濁流に飲み込まれそうになった。
ぐわん、と脳みそが揺れ、なぜだか喉が異常に乾いた。
飢えているのだな、と変に冷静な頭の一部分が判断する。
水を飲んでも水を飲んでもこの渇きはいやせない。

こんな状態が一生続くわけじゃないのはわかっている。
今だけだ。
虎徹の体が本調子に戻るまでだ、
と自分に言い聞かせる。
ガキじゃあるまいし、こんなことで自分自身がぎりぎりまで追いつめられるなんて。
どうかしている、とは思っても
心は裏腹、焦燥と孤独にさいなまれていた。








きかっけは、虎徹のけがだ。




いつもの出動要請を受け僕達は、素早く事件を解決したのだが
その帰り道にバイクで走っていると反対車線に女の子が、ボールを追いかけ
いきなり飛び出してきた。
目の前には大型トラック。

あまりにいきなりの事だったのだが、虎徹は素早く反応し、ギリギリのところで女の子の背中を押してトラックから守ることに成功した。
しかし虎徹はまともにトラックにはねられて高く宙を舞い、地面に激しく体を打ち付けた。
スーツを来ていて幸い、
肋骨を一本折り、二本ヒビが入った程度ですんだが、
そこから入院した病院で、院内感染してしまい、ウイルス性のひどい風邪にかかって、
一時は怪我の部分も熱を持ち悪化、
大変なことになったのだ。
その間、うつるといけないからと、隔離された虎徹に触る事すらできなかった。
退院して今は自宅療養中だが(一人では何かと不便だろうから僕の家にいてもらっている)
体に響くから、愛し合う事はもちろん抱きしめる事もままならないのだ。


なんだかんだで、もう一か月近くになる。
体が大事だし、無理をさせるのは僕も嫌だ。けど…


僕は心にある黒くてどろりとしたものを見ないよう見ないよう必死で目をそむけた。












,
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ