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□地の底でも
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「ねえ、旦那ぁ」
「人って死んだら何処に行くのかなあ?」
私のマスターはとても不思議な人だ。
何も考えずただ自分の楽しみのために殺戮を繰り返しているように見えるけれど、本当は色々と考えているのである。
「天国とか地獄とか、そういうところってどんな宗教にもあるじゃん?
どんな宗教にもあるってことは、皆そういうのがあるって信じてるんだろ?」
「リュウノスケは、信じているのですか?」
「うーん、そこまで深く信じてる訳じゃないんだけどね」
リュウノスケは少し照れくさそうに笑った。
ただし、手は動かしたままだ。
「でもさ、人は死んだらどっかしら行くと思う。ま、何の根拠もないし、確かめられないけどね」
喋りながらリュウノスケは作品を作りあげてゆく。
その作品はリュウノスケ風に言うならばCOOLということになるのだろう。
人の皮や臓器を使って美しく作りあげられた至高の作品。
その作品を見て、リュウノスケは首を傾げた。
とても美しいと思うのに、気にいらなかったようだ。
「今日は何を作っていたのですか?」
「人間ランプ」
短く答えて再び手を動かし始める。
彼は一流の芸術家だ。
だから、作品は気にいった形になるまで何度も何度も作り直す。
「でさ、旦那。俺は死んだらきっと地獄的なトコに行くと思うんだよね。
俺がやってることは、やってきたことは、皆から見て『悪いこと』だからさ」
「しかしながら、リュウノスケ、貴方は結局何を言いたいのですか?
私はてっきり、貴方は地獄すらCOOLと言って喜ぶと思っていましたが」
「うんうん、地獄ってなかなかCOOLそうだよね。わくわくはするけど・・・でも、旦那は居ないじゃん」
ふと手を止めたリュウノスケの横顔は、いつもの純真無垢な笑い顔ではなかった。
どこか哀しげな、寂しげな、憂いを帯びた顔。
嗚呼、私はこの顔を見たことがある。
そう、麗しの聖処女が死の直前に見せた顔――凛としたいつもの表情の下から現れた年相応の少女の顔。
とても美しかった。
今目の前で聖処女と似た表情をしているリュウノスケも、酷く美しいと思った。
「旦那は『えーれーのざ』だっけ、それに帰っちゃうから、俺は独りでCOOLを探さなきゃね」
「・・・いいえ、リュウノスケ。私は帰りませんよ」
貴方と一緒に居ます。
そう言って、リュウノスケの頭を優しく撫でると彼はようやくこちらを振り向いた。
「旦那、本当?」
「ええ、本当ですとも。リュウノスケが悲しむようなことを、私がすると思いますか?」
「ううん、思わないよ旦那!やっぱり旦那は最高だよ!超COOOOOOLだよ!」
先ほどの憂いの表情も美しかった。
けれど、やはり、リュウノスケは無邪気な微笑みこそが合っている。
――その笑顔を、絶対に亡くしたりなんかするものか。
かつての聖処女のように、虫けらどもに引き渡してなるものか。
地の底でも貴方に笑顔を
旦那と龍ちゃんは、二人揃ってないとダメだと思うんだ。