+ 伊 達 主 従 +


□信じられるもの
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「ふう…、いい湯だったぜ」





風呂上がりの政宗様が部屋に入ってきた。




首にタオルを掛け、上機嫌。



政宗様は大の風呂好きだ。














「……何だ?」

「はい?」

「いや、じっと顔見てるからよ」

「…あ、いえ」




思わず目を逸らした。




ほんのりと朱に染まった頬。

元々少し癖毛である髪はしっとり濡れており、毛先まで真っ直ぐサラサラと夜風にあたり揺れている。




「いい風だな」

「あまり当たりすぎると、湯冷めしてしまいますぞ」




そう言いながら、じっと眺める後ろ姿。


抱き締めたら、きっとまだ暖かいだろう。






「今夜も月が綺麗だな。見ろよ、小十郎」





月よりも、美しい。



そちらに目がいかないほどに……







「おい、聞いてんのか?」

「は…っ」

「何ぼうっとしてやがる。疲れてんのか?」

「そういうわけでは…、ただ、見とれていただけです」

「月にか?」

「…いえ。貴方に」





つい、自然に口にしてしまったが。


途端に政宗様の表情が、茫然としたものに変わってしまった。




せっかく、機嫌の良い顔をされていたのに。







「…何処に見とれてたんだよ」




顔を少し背け、こちらを見ずに問われる。



「何処と言われますと…」




ほてった肌、濡れた御髪、無防備な薄着。


その全てに見とれていた。




などと正直に申せば、呆れられるだろうか…。








「今見とれてたって言ったじゃねぇか」



チラリとこちらを見る左目。




「嘘かよ?」

「いえ、そういうわけでは」

「なら言ってみろよ。怒らねぇから、正直に」




ちょっと冗談で笑みを浮かべ、答えを迫られる。




ますます言いにくい。







「お前がオレの何処に見とれてたのか、知りてぇよ」





さらに、期待に満ちた視線を突きつけられてしまう。



さすが政宗様……こういうところでは、とてもかなわない。




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