+ 蒼 紅 +
□mosquitoにご用心
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「あちぃ…」
容赦なく照りつける太陽を、開いた障子の隙間から恨めしく見上げる。
季節は真夏。
賑やかな蝉の鳴き声が、非常に耳障りだ。
元々灼熱の気温にあまり慣れていない政宗は、奥州とは若干気温の差があるここ甲斐に、今の季節に訪れる事は苦手としていた。
だが、会いたい者がいる。
たったそれだけの理由でこの炎天下を乗り切れるのだから、“想う気持ち”というものは何よりも強い武器になる。
―――しかし、その人物は今はすぐ横で、すうすうと気持ちよさそうな寝息をたて熟睡している。
「……んん…っ」
「…この暑い中、よく寝られるもんだぜ」
ついさっきまで軽く手合わせをし、久しぶりに刀と槍を交えられた興奮で疲れ果ててしまったようで。
政宗の横で幸村はウトウトして、いつの間にやら熟睡してしまった。
その寝顔を眺め、先に味わった興奮を政宗もまた思い出す。
炎天下の中熱く交わったあとにバテるのも、何だかマヌケな話ではある。
そのときはただお互い夢中で、暑さなど気にならなかった。
終わって興奮が静まると、じわじわと太陽の光が憎たらしく感じてしまうが…。
「やめられねぇんだよな…」
幸村の寝顔を見つめ、手にしていたうちわでパタパタと扇いでやりながら、小さく呟く。
何があろうと、幸村と会う事を、つい優先してしまう。
ただ会いたい一心に。
その想いが、自分を動かし奮い立たせる。
「………Ah?」
ふっと目の前を、黒いものが横切った。
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