+ 蒼 紅 +
□初心
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「それがしも、政宗殿の事、お慕いしておりまする…!」
――俯き加減で、そう言われた瞬間。
頭の中で、我慢していたものが、一気に弾け飛んだ。
「ま、政宗、殿…っ」
一瞬だった。
瞬きをする間もなく、政宗の胸元に顔を押し付けられる。
強引ながらもやんわりした力で腕を引き寄せられ、強く、抱きしめられてしまった。
何もかも唐突過ぎて、困惑の色を隠せない。
心臓が自分でも驚くほどに、強く脈打っている。
こくりと小さく喉を鳴らすと、政宗が真っ正面からじっと顔を見つめてきた。
こんなにも真剣な表情で、熱く見つめられたのは初めてだった。
幸村はつい、緊張で固まってしまう。
政宗の肩にしがみつき、瞬きする事も忘れ…。
「……わりぃな。ちょっと強引すぎた」
「政宗…殿」
戸惑う幸村を気遣う政宗。
とことん初心な幸村だ。
“好きだ”と伝えられて恥ずかしかっただろうに、それにきちんと自分も“慕っている”と返事を返してくれたのだ。
それだけで…本当に嬉しかった。
感極まって幸村を抱き寄せてしまった政宗だったが、幸村の身体があまりにも暖かく細かった事に驚き、抱きしめていた腕の力をつい弱めてしまった。
政宗の腕の力が抜け羞恥心から少し解放されたのか、幸村がようやく瞬きをした。
パチパチと瞬かせる瞳は困惑の色で揺れていた。
その目尻をそっとなぞるように、政宗は右手を幸村の頬に添える。
政宗の手が頬を撫で、幸村は反射的に“うっ”と小さく唸り、身をかすかに震わせた。
何から何まで初な反応を見せる幸村に、政宗はもう限界だった。
戦では絶対に見ない、幸村の別の一面。
政宗は、確実にハマっていた。
だからこんなにも……
もっと触れたいと思ってならないのか。
自分とは正反対すぎる素直な幸村に、接する度に惹かれてしまう―…。
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