兎と帽子屋。


□お姉ちゃんの到来。
1ページ/4ページ

秋空が綺麗に夕日に染まり、烏が鬱陶しく鳴く。耳障りだと思う常だったが…今はそんなことはどうでも良い。
敬愛する姉上が来た。
敬愛はしているが、実はちょっと苦手だったりする。
そう、実家にも黙って居座る淑やかな女性に見えるもんだから油断させる。あの、恐怖の笑顔で。

男女問わず惑わす笑顔。
声。



その姉上が、毎年秋になると来る。



だが、今回は違った。


何処で拾ってきたんだ。




「珠璃、こちらがあなたの叔父よ。奇人おじ様って呼んであげなさい」

「え、っと…?」


「姉上!」


クスクスと笑い姉上はコホンと一つ咳ばらいをした。




「妻になります」





「は?」




何になるって?









「妻になるの。藍楸瑛の」



「あぁ、姉上、また拾い食いしましたね?」







「やだぁ〜今度は違うの〜。三人の藍家当主にお願いされたのよ。放蕩弟を軽く束縛してやってくれって」


「はぁ?」


「だから、妻になったの。挙式は面倒だから断ったわ。だから貴方には教えとこうと思って」






封じ込みの微笑みをされ、黙り込む。小さな子供に目をやる。



「この子には藍の名は与えません。燐 珠璃です。ねぇねぇどっちだと思います?男の子?女の子?」

「……女子でしょう」

「フフフ〜ぶっぶー男の子でした〜17歳で私の旅の話しあい…いぇ、護衛なのよ」

「17!?」

随分小さな背丈だ。
小さく眉を潜め睨む。


「小さくない。これからです」


「ふふっ、鳳珠。珠璃はね読唇術を使えるんですよ。貴方の仮面なんか関係ありませんの」


「…はぁ…貴女は…」



呆れた。この姉は絶対に口にした事を護る。だから…ブレはしない。藍龍蓮より先を見ている気がして時々怖くなる。


「いつまで、です?」



「それは、私が見切りをつけるか、珠璃が見切りをつけるか、藍家がつけるか、三択ですよ」

「何故、珠璃が含まれるんです」


「鳳珠」



一貫する姉上に言葉を詰まらせる。笑顔を失った珠璃姉上に黙り込む、恐ろしいから。


「良いですか?子供は親を選べないと言いますが、そんなことは一切ありえません。子供が親を選び産まれるのです。」


貴女は産んでないだろう。


「鳳珠、私はこの子を私の息子、長男、としたのです。血の繋がりなんて本当はたいしたモノではありません。絳攸を見なさい。悪の大魔神と小悪魔に挟まれてあんなに賢くいい子に育って…ですから、藍楸瑛を父ではない。父に相応しくない。傍に居たくないと言えば即刻別れます。勿論私がいらないと言われれば私だけ立ち去る覚悟です。馬鹿三…藍家当主にも伝え許可をとりました。」

「珠璃を藍楸瑛に預けると?」

「それは珠璃が決める事です。もう17、良い歳ですから。」
「解りました。姉上がそうおっしゃるなら…」



姉上は再びクスクス笑いながら珠璃と顔を合わせている。負けてしまうんだ。この切替に。
あの黎深が姉上に「弟にくらべ哀れなぐらい貧相」と口にしてそれから……うぅ…
悪夢だ。
百合姫がこの姉を尊敬しているんだ、黎深も黙ってしまうんだから。


「そうだ、鳳珠。この子御史台に向いてません?」

「……まさか」

「ふふふ」


「姉上!」

「もしくは吏部監査に」

「……姉上…」


「勿論、珠璃が決めます。だからチョロチョロさせますから、主上にその旨をお伝え下さい」














頭が痛い。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ