memorial

□tada’s gift story 1
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※CP獅雪です※




「なぁ雪男、今日はめでたい日なんだ」

「めでたい日?…いったい何の?」

「いや、それは秘密なんだけどな」

任務完了の手続きを終えて支部の廊下を歩いていた雪男は、つい先ほどまで同じ任務に付き添っていた獅郎が突然そう言って目の前にやってきたので首を傾げ た。 任務前も、もちろん任務中も、そして任務完了直後もめでたいことについては何も言っていなかった。雪男は目の前に佇む獅郎を訝しげに見上げた。

「でな、めでたい日だから一個だけ雪男の願い事を聞いてやろうと思ったわけだ」

「…はぁ」

何がなにやら分からない状態で話は進み、雪男はさらに頭を混乱させる。

「何かないか?」

しかも、言い出している獅郎はニコニコと微笑みながら雪男へと顔を寄せてきた。 雪男は思わずそれに後退りながら、「じゃぁ…」と口を開く。

「神父さん報告書が溜まってるって聞いたから…それを片付けて下さ…」

「ハイ、却下!」

「………」

「…何でも言え、何でも」

何でもって自分で言ってるのに、何でさっきのは却下なんだよ!と、喉元まで出てきたものの雪男はその言葉を飲み込 んだ。

それを言って、展開が良くなった例が無いからだ。

「そう言われても……特に無いんですけど…」

眼鏡の縁を押し上げながら、雪男は思考を巡らせた。

――今後、猥談を任務中にしないで下さい。 (聖騎士の威厳なんてあったもんじゃないし) ――記憶が飛ぶまで酒を飲まないで下さい。 (次の日に支障が出るし、ちゃんと食べてないのに酒飲むんじゃ身体に悪い) ――それより帰ってゆっくり休んで下さい。 (連日の激務で心身ともに参ってる筈だし)

(って…駄目だ。どれもこれも今まで散々言ってきたヤツばかりしか思い浮かばない…)

雪男は思わず頭を抱え込んだ。 うぅ〜っと真剣に悩む愛弟子兼愛息子に、それを眺めていた獅郎が思わず笑う。

「…何笑ってるんですか?」

気持ちムッとして顔を上げると、獅郎は至極嬉しそうに笑っていた。

「ん〜?何か雪男が真剣に考えてるのが可愛いなぁと思って。 きっと自分のコトじゃなくて、俺を想ってのコトばっか考えてるんだろうなぁと思ってさ」

図星を指されて、雪男の顔がさっと赤くなる。

「なっ!そ、そんな事無い!何、神父さん自意識過剰ですよ!」

慌てて弁論するものの、赤い顔では説得力に欠けるもので。

「そうか?俺は願い事を叶えてやるって言われたら、 真っ先にお前のこと考えるけどな?」

さらりと言われた言葉に、雪男の顔が更に赤くなる。 獅郎は微笑んだままその距離を縮めた。 柔らかい黒髪に指を絡め、そっとその髪を梳く。

「…でも、それは結局俺のエゴでしかないのかもしれないけどな」

見上げる雪男の額に、獅郎は軽く唇を寄せる。 心地の良さに雪男は眼を細めた。

「…で、何か願い事はあるか?」

声が心地良い。 暖かい体温が心地良い。 髪を梳く大きい掌が見詰める眼差しが笑顔が

その全てが。

「…何でも良いんですよね?」

雪男は、自分を見る瞳から碧眼を逸らさずに尋ねる。

「ん?…まぁ、俺に出来ることならな」

雪男は獅郎の返事に照れ臭そうに笑う。 そして、少し見上げる場所にある耳元に唇を寄せるとそっと囁いた。

その言葉に、獅郎はまた笑みを深くする。

「それって結局、俺を喜ばす以外の何事でもないんじゃないか?」

雪男は赤くなる顔を俯いて隠しながら、目の前に見える獅郎のコートを摘んで言った。

「…何でも、叶えてくれるんでしょ?」

―――願い事は何?

―――神父さんが僕を愛してる証をちょうだい。




END. -------------


唯さん初獅雪作品だそうです!
雪ちゃんが初・任務単独完遂とかで、獅郎さん一人でめでたい日にしちゃったようです。これ、素敵すぎて獅雪に目覚めそうでうろうろしていた私の心を鷲掴みにして拐っていきました…うふふ。
獅雪!もっと増えろ!!!
続いては唯さん宅で上がっているリクエスト小説の中でリクさせていただいた和風雪燐の河童編のお話です!


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僕のお守りする若様は、なんとも無防備過ぎる。 だけどそれは今に始まったことではないので、もうそれを前提にして行動することが、僕の躯に染み付いてしまった。 そうして傍に仕えるようになって、そろそろ両手で数えることも足りなくなってきた。

ずぅーと傍にいて、これからも傍に居続けるのだろう。 この、胸の内の想いを秘めて―


**


「若様、そろそろお屋敷に戻りましょう」

見上げる先は、巨大な岩だ。 足元には脈々と流れる水があり、水浴びにはちょうどいいほどの渓流だった。 雪男は、半分ほど水に浸かっている岩に立ち止まり、 己の背以上にある岩の天辺に顔を向けた。

遠方へと使いを頼まれた雪男が屋敷を出たのは早朝のことだ。 使える家の長兄直々の頼まれごとだったので、雪男に拒む権利はない。 一つ返事でそれを遂行し、昼過ぎには用も終わって屋敷へと戻っていたのだったが。

どこでどう聞きつけたのか、屋敷までの道も残り3分の1ほどになった道中で、雪男は日々護衛している“若様”と出くわしたのだ。 聞けば「散歩中」と答えたのだが、こんな山間の川縁を歩く者はこの時期あまりいない。 “若様”が、かつてここを散歩の領内にしたこともなかったので、恐らく自分を護衛すべき者の後を追ってきたのだろう。

岩の端からは、ぴこりと白い素足が見えている。 ぱたぱたと動いているので、どうやら雪男の声は聞こえているはずだ。 雪男は小さく溜息を吐くと、「…若様」と呼び掛けた。 けれど、反応はない。いや、あるのだけれど、足がぱたりと動くだけだ。

やれやれと肩を竦ませ、雪男は目の前の岩をひょいと登った。 凹凸のある岩の上、日の光に温もった岩の素肌で、眩しいだろうに仰向けで寝転がる“若様”がいた。 雪男の前ではこうしてよく寝転がる。 しかも場所を問わず寝転がるので、雪男はそんな“若様”を嗜めたり、体を冷やさぬように世話を焼いたりすることが日常茶飯事だ。

「…寝るのは良いですが、もう少し日陰に行きませんか?」

「………」

無言を貫く“若様”の眉間に皺が寄る。 発言に顔を歪めたのか、眩しくてしかめたのか分からない。 ふぅと雪男が息を吐けば、ことんと首を横にした“若様”の目蓋が開いた。 薄く開けたその間から、煌く青が雪男を見る。

「…二人の時は、その口調を止めろよ」

「………」

この“若様”は、同年代の雪男が自分に対して敬語を使うことを好んでいない。以前、壁が出来たようで嫌だと言っていた。 ムスッとした表情を見下ろしながら、雪男は困ったように微笑んだ。

「……日に焼けて痛いって言うのは、貴方だよ?」

「…少しくらい焼けた方が、健康的に見えるだろ?」

ニッと歯を見せて笑う。 眉間の皺が無くなり、途端に機嫌が良くなった様子に雪男は笑いを堪えた。 くるくると変わる表情は、傍で見ていて面白いものだ。それに己が関与していると思うと、尚のこと楽しい。

雪男は更に傍に近寄って腰を据えた。 水のせせらぎに耳を傾けながら、青々とした木々と深緑の水面に目を向ける。 時折ぱちゃりと音がするのは、魚や鳥たちが生きているからなのだろう。 雪男がホッと肩の力を抜ける時間は、もしかしたら“若様”が敢えて作ってくれているのかもしれない。それが無意識なのかそうでないのかは図りかねるけれど。

隣を見れば、いつから見ていたのか青い瞳と視線が交わった。 雪男が片眉を上げれば、楽しそうに微笑む表情が目に飛び込む。

「…泳ぎてーな」

「僕はびしょ濡れの貴方を抱えて帰るつもりはないよ」

「上着くらい貸してくれたっていいだろ」

「嫌だよ。泳ぐなら、泳ぐと決めて準備をしてから屋敷を出てきてよ」

嗜めれば、「ちぇー」と言いながらも嬉しそうに笑みを向けられる。

「岩から飛び込めば、結構楽しいと思うぜ?」

「全身ずぶ濡れなんて、尚のこと嫌だね。それに…」

そう言いながら、雪男は岩下に目を向けた。 飛び込めば、確実に足を怪我するほど浅い。 だが、そんな雪男の様子に言いたいことを感じ取った のだろう。くすくすと笑いながら、“若様”は日陰の水辺を指差した。

「ほら、あそこら辺は深そうだろ?河童でも居そうだけど」

対岸の斜面と、その深い緑の水面を見詰める。 確かに、底が見えないほどの深淵に見えた。

「飛び込んだが最後、河童に足を引っ張られるんじゃないの?」

「…そしたら、雪男が助けてくれるだろ?」

すぐ返ってきた言葉に、雪男はゆっくりと声の方向へ顔を向けた。 日の光に反射した青が細まり、雪男へと笑いかける。 軽口に軽口で返したつもりだったが、貫く瞳はどこか真摯だった。

「…当たり前だ。僕は貴方を守るためにいるんだから」

翡翠の瞳を、青に絡めて伝える。 嬉しそうに、だけど儚そうに微笑み返されて、雪男は知らず、その白い掌に己の手を重ねた。

ぱちゃんと水面の跳ねる音がしたが、二人の耳には届かなかった。





END. -------------


はぁ......自然の中で、今までの若様と使用人的な関係からただの人対人になるっていうか......でも人対人で対等であっても雪ちゃんは必ず燐ちゃんを守るんだねっていうね。深いです、ここから私はまた妄想をしてしまいそうです。というかしてますwww
こんなにステキなお話二つもありがとうございます!もう、唯さん女神っっっ(^ε^*)

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