memorial

□きっかけをくれたのは
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チャイムが授業の終わりを告げ教室内が少しざわつく。先生が教室を出ると同時にピンクの頭をしたアイツが教壇の前に座る同級生の元まで一目散に駆けつける。


「......何だよ」

「奥村くん、今日は俺と遊びにいかへん?」


いつもやけどこいつの行動は突然でいまいち意図がよくつかめん。わかっとる事は子猫丸がよく言うとるように煩悩まみれやいう事。
意気揚々と張り切って誘う志摩に驚いた様子の奥村やったが、その表情は最近よく見る元気の無いものに変わった。


「俺金ねぇし、雪男寮に一人だから」


傍にいてやりたいんだ、そう言って苦く笑う。以前のアイツの笑顔には程遠い笑顔。それでもしつこく絡んどる志摩を見て子猫丸と俺は同時にハアッと溜め息を吐く。帰り支度を手早く済ませて子猫丸と一緒に二人がいる席まで歩み寄った。


「先生どうしてはる?」

「あぁ...もうだいぶいいみてーだよ、包帯も取れたし。あとは記憶だけだ」


心配そうに声を掛ける子猫丸に体を向けていつもより少し覇気の無い声がそう答えた。

一週間前、任務に出た先生は記憶を無くして帰ってきはった。一緒に任務に出た祓魔師によると悪魔を祓った際に何かされたらしい。その詳細はようわからん。のうなっとるのは一月分の全ての記憶と兄である奥村燐の記憶。奥村の記憶に限っては全てが抜け落ちてしまっているらしい。それを知ってからというもの、奥村の様子は変わってしもた。みんなの前ではいつものように振る舞おうと気を使っとるが、元来器用でないコイツがそんな事上手く出来る訳が無い。先生の事はもちろん、そんな奥村の事をみんなが気に掛けとった。


「なあなあ奥村くん、堅いこと言わんで遊びに...」

「何かきっかけがあればええんかな...」


自分の言葉をスルーした子猫丸が信じられんと志摩の目がカッと見開く。


「せっかく明日休みやし、理事長に了承してもろて実家に帰ってみるとかどうや?」


坊まで!!マジか!?悲しいわ...。
確実に心の声が駄々漏れな志摩の顔。


「さすが坊やね!それなら先生も何か思い出すかもしれへんよ」

「修道院か...おっし、メフィストんとこ行ってみっか!」

「おお!行ってこい!」

「ちょお待ってぇな!全く無視って!」


俺らと一緒に見つけたひとつの可能性に掛けるようにまたその瞳に希望を灯す。アイツが今探しているのは先生が思い出してくれる為のきっかけや。俺にその手伝いが出来るんならいつでも手ぇ貸してやりたい。きっとここにいるみんなも同じや。

鞄を抱えて教室を出ていく奥村に向かって後を追おうと諦めん志摩の首根っこを捕まえて力任せにぼすんと椅子に座らせる。俺も向かい側に座ってその悲しそうな目を見てぶっと笑ってしもた。


「志摩」

「...何ですの」


笑ってしもたのが勘に障ったのかぶっすーっとそっぽを向いたまま不機嫌そうに口を尖らしとる。


「おまえなりの優しさやもんな」

「は?」

「気分転換させたろ思たんやろ?」

「見事にフラれましたけど」


ははっと笑って背凭れに寄り掛かる。でもちょっと寂しそうに見えて子猫丸に視線を向ければ苦く笑うその表情から言いたいことが聞こえてきたような気がした。


「ほんなら行こか」


席を立って自分の鞄と志摩の鞄に手を伸ばす。


「へ?何処へ?」

「奥村くんに逃げられた志摩さんを可愛そうに思うたんやないの」


子猫丸が志摩に呆れたように笑いかけた。


「俺と子猫丸で遊んでやる言うとんのや」


一瞬固まった後、照れくさそうに笑ってちょっと考えるような仕草をしてから席を立つ。


「遊んでくれるのは嬉しいんやけど...そんなら先生と奥村くんの役に立つこと考えませんか?」


いつもちゃらんぽらんな志摩からのそんな言葉が、俺の中でうずうずして堪らんもんに変わる。俺は自分の腕で志摩の首をホールドしてぐしゃぐしゃとピンクの頭を撫で回した。






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