memorial

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本日最後の塾の授業が終わり教壇の上に出した教材を端から順に片付け始める。視線の先には帰り支度をした塾生達が集まって仲良さそうに談笑していた。みんな学園では別々のクラスだが、ここに来て信頼を築いてきた仲間達。
その絆は日々深くなる。
毎年こういった光景をこの場所から眺めてきたけれどいつも思うことは同じで10年前初めて教師として生徒を受け持ったときを思い出すのだ。

いろんな事があった、あの頃を。
そして今ではなかなか会うことも無くなってしまった彼らのことを。

薄く笑ってそれを生徒に気付かれぬように背を向けて番書を消していく。半分ほど消したところで聞きなれた声が僕を呼んだ。


「奥村先生」


右側の視界にチラリと白いマントの端。
目だけを動かし確認してまた黒板に視線を戻した。


「何でしょうか?」


そっけ無い僕の態度を面白く思ったのだろうか。ククッと笑うのが耳につく。


「たまには私にも笑顔を戴けませんか?」


長身な身体を折り曲げて無理矢理に横から覗き込んでくる。いつもこうやって相手の反応を見るのが何より楽しいらしい。本来は悪魔なのだからこんな気休め的なことでは気は紛れぬはずだが。
はぁ、と溜め息をついて眼鏡のブリッジに指を当てるとゆっくり理事長に身体を向けた。


「これでいいですか?」


業務用の笑顔を向ければ満足げに相手も胡散臭い笑みを浮かべる。


「ええ、ありがとうございます。相変わらず魅力的な笑顔ですね、悪魔を惹き付けて止まない...」


腕を組み目を細めて笑う姿に、意に反して背中を冷たいものがぞくりと走る。それを察することがないように冷静を保ちながら口を開いた。


「ご用件は何です?」

「あぁ、そうでした」


ぽんと手を叩いて握っていた拳を開けばそこには以前に一度目にしたことのある碧い石の飾りのついた鍵があった。


「......これ」

「覚えていますか?」

「ええ」

「今回はお兄さんたっての希望です。お兄さん一人では些か心配なので貴方には付き添いをお願いします」

「たっての希望って何ですか?」

「今度付く任務に関する事項で確認しておきたいことがあるようです」


そんな例、今まで聞いたことがない。
どんな任務で過去を確認しなければならないのか?疑問に渦巻く頭の中は答えを求めて言葉を吐き出す。


「兄が職権乱用しているだけでは?」

「そうかもしれません。でも今の彼の実績や役職を考えれば余程断る理由がなければ私も断れません。ですから貴方を頼りたいのです」

「...理事長命令ですか?」

「はい☆」


グローブを嵌めた手から強制的に鍵を渡されて僕の眉間は深い皺を刻んだ。


「頼りにしていますよ、奥村先生」


僕の手のひらに乗せられた鍵を残して理事長の指が楽しそうに僕の指をなぞっていく。そこから視線を上げるともうその姿は消えていた。僕はその鍵をぎゅっと握りしめてコートのポケットへと運んだ。






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