memorial

□リトルブラザー
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「......らくん」


閉じた目蓋の裏側。
光が透けて少しだけ眩しい。


「奥村くん」


耳の傍で囁く声。
この部屋にいるはずのない声。
この部屋にいるはずのない声?


「にいさん」


俺の目蓋は自然に開いた。
「にいさん」と俺を呼ぶ小さな子供の声によって。
声のする方に顔をぐりんと向けると可愛らしい男の子がしゃがんだ状態でベッドに手を懸けて微笑んでいる。見たことのある男の子だ。


「おはようございます☆」


早朝から見るには毒気の強い顔がぬっとその横から入り込む。
俺は無言で雪男の寝床を見たけれど帰っていないようだった。

だいたいの状況はそれで掴めた気がした。


「......雪男、か?」


語りかけると困ったようににっこりと笑った。まだ眼鏡をかけていない2、3歳くらいの容姿は本当に可愛らしくてぎゅっと抱き締めたくなる。


「奥村くんにしては鋭い観察力ですねぇ。それとも弟の事にだけ鋭い観察力を発揮するんでしょうか?」


顎髭に手をやりながら楽しそうに笑う姿にムカつきが抑えられない。


「笑ってる場合か。元に戻るんだろうな?」 


ギッとメフィストを睨んでイライラを全面に押し出す。思ったよりも低く出た声に雪男は肩を揺らした。


「これも魔障の一つです。治らないものではありませんが、珍しいものですので今現在薬の調合をしています。丸一日かそれ以上はかかりますかねぇ」

「で、薬出来るまでどうすんだ?」

「忌引扱いで学校や塾は休んでもらいます。貴方も一緒に休んでください」

「え?俺も?」 

「ご覧の通り、奥村先生はかなり幼児ですから生活の中に危険がいっぱいです。貴方には保護者がわりに彼の面倒を見てもらいます」


ちらりと雪男を見れば不安そうにぎゅっと布団の端を掴んでいた。泣いてばかりいた、俺がよく守ってやったあの雪男だ。それよりももう少し小さいか。


「大丈夫だぞ」


ぽんぽんと頭に手をおいてやれば目を細めて少し笑った。


「一つ問題点が」

「何だよ」

「今のところ以前の記憶を保っていますが、次第にそれは退化し消えてしまう可能性があります。それと同時に年相応の言動も増えてくるでしょう。猶予は一日、それを越えれば元には戻れなくなるでしょう」

「それってやばくねえ?」

「ぶっちゃけヤバイです☆」

「だったら早く薬作って持ってこい!!!」

「勿論ですよ。急ぎますからそちらはお任せしますよ」


ニヤリと笑って被っていた帽子に手をやるとぽんっという音と共に煙が上がり奴の姿は一瞬で消えた。






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