memorial
□聖歌を歌う
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季節は12月に入り、11月から始めた子供たちの聖歌隊の練習も本番に向けてだいぶ様になってきた。
「神父さまー」
今日の練習が終わり一人の小さな男の子が俺の元へ走ってくる。困ったように眉をハの字にして今にも泣きそうな顔。
小さい頃の雪男みたいだ。
そんなこと言ったらアイツ怒るだろうか。
思わず緩んでしまった顔を直すこともせずにどこか雪男と重ねて見る目をその子の目線まで下ろした。
「どうした?泣きそうな顔して」
「あのね、ぼくね...おうたがうまくうたえないんだ」
「どうしてそう思うんだ?」
「みんながぼくのこえ、ちいさくてきこえないって...」
どこかで聞いたような話だ。その昔、あいつらが小さかった頃に同じようなことがあった。
「それ、解決できるヤツがいるぞ」
「ほんと?」
「ホントホント。そいつんとこ行ってみるか?」
「うん!」
小さな手を取って、そのこの歩幅に合わせてゆっくり進み礼拝堂を出た。敷地内の木々を見渡して不自然に揺れる一番高い木に向かって声を掛けた。
「おーい、燐っ!」
「うぁ?ちょっと今無理!」
「じゃいつならいいんだー?」
「てめーが飾り付け終わるまで降りてくんなっつったんだろーが!」
荒げられる声に男の子はすっかり萎縮してしまって余計に涙がこぼれそうだ。ここで俺までいつものようにエキサイトしたら絶対にこいつは怯えて泣き出す、ここはぐっと堪えて...。
「何してるんです?」
「おおっ、雪男!おかえり!」
「おおっ、って...」
「ちょっと頼まれごとしてくんねえかな?」
首を傾げる雪男に男の子を託す。俺はその子の頭をくしゃくしゃに撫でてやった。
「このお兄ちゃんな、小さい頃おまえと同じ事で悩んでたんだ」
「えっ、そうなの?」
「それで、あの木の上にいたコワイお兄ちゃんに解決してもらったんだぞ」
「俺は怖くなんかねーぞっ!」
姿は見えないがこちらの話に耳を傾けていたらしい燐の声が響く。
「そういうのが怖いんだよ」
ぼそっと呟く雪男は俺と同じように目線を下げてそこにしゃがんでにっこりと微笑んだ。
「今の話だけじゃよくわからないから僕にきみのこと教えてくれる?」
優しげに話す声に安心したのか男の子の表情は少し明るくなった。俺よりも子供の扱いが上手いのがちょっと悔しいがさすが俺の息子だな。
「木の上にいるコワイお兄ちゃんにも聞いてもらえるように大きな声で話せるかな?」
「だから怖くねえって!二人して変なイメージを植え付けんなよ」
こっちの息子は...雑だなぁ、相変わらず。性格はいいやつなんだけどこんなだから勘違いされやすい。まぁ俺にとっては燐も自慢の息子なんだけどな。
「ぼく、おはなしするよ。だからおこらないできいてー」
「怒ってねぇよ!おまえまで何だよ、何か悲しいぞっ!」
本当に悲しそうな顔を木の枝の間からひょっこり出した燐を見て男の子も雪男も俺も顔を見合わせてクスッと笑った。
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